第4話 ノート
颯太は鈴音と付き合い始めたことを喜び、祝福してくれた。
「おめでとう!まさか悟に彼女なんてなー」
「俺だってやる時はやるからな」
「お、一人称が俺になってる」
「形だけでも頼れる男って感じ出したくて」
「悟らしくていいじゃん」
告白されてから俺は、鈴音に釣り合う彼氏になるためにさまざまなことを努力している。何とか男らしくなりたくて、月並みだけど形から入ることにした。そのせいか、僕をよく思っている女子もいると颯太が言っていた。
だが正直それにあまり興味はない。鈴音は「何か最近かっこよくなったね」と言ってくれる。そのことは本当に嬉しかった。全てが順調だった。
夏休みまであと一ヶ月弱となった。それで浮かれすぎたせいか課題を出し忘れた。居残りはなんと俺だけ。鈴音と一緒に帰れないし一人の教室怖いし散々だ。でも持ち前の集中力ですぐに終わらせることができた。鈴音にLINEを送った。
『終わったよ。先に帰らせちゃってごめんね。明日は一緒に帰ろう』
ぐっと伸びをして、席を立つ。ずっと文字を書いていたせいで頭に霧がかかったようだった。歩き出すと体がぐらつき、咄嗟に誰かの机に手を置いた。
「あっ」
そこは潮田さんの席だった。そういえば、誰か潮田さんにプリントを届けているのか。本当はよくないとわかってはいたものの、俺は机の中を覗いた。
俺の予想に反して、プリントはあまり入っていなかった。机の中は綺麗に整頓されている。俺は少し面食らった。綺麗に整頓されていたことに面食らったわけではない。教科書が全然入っていないのだ。あるのはほとんどノートだった。一番上の置いてあるノートには料理と書いてある。俺は何かに引き寄せられるようにノートを机から引っ張り出した。手にとったノートをぺらりとめくると、颯太の好きな食べ物、嫌いな食べ物が事細かに記されていた。
「うわぁ…」
思わず声が漏れる。その声が軽蔑や畏怖からきたものではないことは、自分が一番わかっていた。ページをぱらぱらめくり続ける。
すごい、すごい。
書かれていたのは好きな食べ物や嫌いな食べ物だけではなかった。料理のレシピ、失敗しないコツ、美味しくするための工夫や隠し味まで書き込まれている。付箋で和洋中スイーツが分けられている程の徹底ぶりだ。
なぜか涙が頬を流れた。慌てて袖で拭う。潮田さんは本当に颯太のことが好きなんだ。ノートを元の位置に戻すと、俺は何事もなかったように帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます