第2話 異変
数日後、それは起こった。四時間目の体育が終わり、僕たちは購買に行くため急いで帰ってきた。僕の好物のメロンパンはすぐに売り切れるからだ。
教室に入ると、先を歩いていた颯太の足が止まった。どうした?と声をかけても微動だにしない。僕は颯太の正面に回り込んだ。すると、颯太が何を見ているのかがわかった。颯太の机の上に少し大きめの弁当箱がある。そしてフタの上には嫌というほど見慣れた薄水色の封筒。誰の物かなんて明白だった。颯太は何も言わずに弁当箱と封筒を鷲掴みにし、傍のゴミ箱へ放り投げた。
「ちょ、何してるんだよ!」
僕はすんでのところで封筒と弁当箱をキャッチした。
「何してんだよ悟。こんな気持ち悪い物、食うわけないだろ。だいたい何が入ってるかもわからないんだぞ」
「でもせっかく作ってくれたんだし、食べようぜ」
颯太は心底嫌がっていた。でもクラスメイトが帰ってきて教室が騒がしくなってくると、食べる決意をしたようだった。あまりにも颯太が怯えているから僕は先に卵焼きを口に放り込んだ。思わず声が漏れる。
「あっ、美味しい」
颯太は怪訝そうな顔で僕を見ていたが、結局諦めて僕の半分くらいの量を食べた。こんなにおいしいお弁当を作ってもらえるなんて、何だか羨ましいような気もする。いいお嫁さんになれるなとかお節介なことを考えながら、潮田さんに目をやった。彼女は相変わらずノートに何かを書き込みながら、不服そうにお弁当を食べる颯太を繁々と見つめていた。
「食べ終わったけど、これどうするんだよ」
「潮田さんの物だよ?ちゃんと返さないと」
そう言っても立ち上がろうとしないので、僕が代わりに返した。
「これ、潮田さんのだよね。ありがとう」
潮田さんは「何でお前が」と言う表情を僕に向けたが、黙って弁当箱を受け取った。ぼそっと「どうも」と言う声が聞こえた。凛としていて綺麗な声だった。
潮田さんのお弁当を食べてからから数日は手紙が来ず、何事もない日々を送った。理由は単純明快、急に彼女が学校に来なくなったからだ。そのことと僕が弁当箱を返したことは関係ないと信じている。颯太は毎日「平和だ」と何度も言い聞かせるように言っている。正直なところ潮田さんが来なくて喜ぶべきなのか僕にはわからなかった。颯太はとても嬉しそうにしていた。
でも僕にとっては、颯太が手紙を見せてくる時間が日常の一部になっていて、違和感を感じているのかもしれない。僕はおかしくなってしまったのか。友人が嬉しそうにしているのに素直に喜べないなんて。僕は潮田さんのことも、手紙のことも、お弁当のことも考えないようにしていた。
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