第7話 奇妙な噂5
「今夜は新月か。あの時と同じで真っ暗だな」
もしかしたら、今夜は会えるかもしれない。
妙な予感が働き、いうことを聞かない身体の代わりに瞳だけを彷徨わせる。
やがて、音もなく近づいてきた男を見て、ヴィクトルは目を見開いた。
「ああ、ノア。会いたかった。ここで金髪の男を見かけたという噂を聞いて、ほぼ毎日通っていたのに、今までどうして俺の前に姿を現わしてくれなかったんだ」
ノアは、怒りと憎しみを込めたバイオレットの瞳をヴィクトルに向けた。腰に刺した鞘から剣を抜くと、ヴィクトルに剣先を合わせる。ヴィクトルは怖いとは思わなかった。
やっとノアを失った苦しみから、解放されるときがきたのだ。
ヴィクトルは唇に笑みを浮かべ、襟元を開いた。
「さあ、刺せよ。騎士の誓いを守れなかった俺に、とどめを刺してくれ」
騎士の誓いと聞いて、ノアがびくりと反応するが、耐えかねるように目を伏せて背中を向ける。マントには切り裂かれた跡があり、血に染まっていた。
「待ってくれ、ノア。行くなら俺を連れていけ」
ベンチから立ち上がったヴィクトルが、酔いでふらつく脚を叱咤しながら必死で追いかける。だが血染めのマントを羽織ったノアは滑るように進んで、二人の距離は開くばかり。ヴィクトルはノアの姿を見失った場所に膝をついて慟哭した。
それから毎日ノアを求めて庭に通ったヴィクトルは、ノアが新月の夜だけ姿を見せることを突き止めた。
ヴィクトルが話しかけても、ノアは語らない。怒りか悲しみか、最後はつらそうな表情を浮かべて消えていく。ヴィクトルは正気を失いそうだった。
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