第7話 奇妙な噂4

 哀しいことに、ノアは出血多量で助からなかった。

 ノアはクリントス子爵家の墓に埋葬され、ヴィクトルは、ノアとともに生きるという未来を失った。   

 騎士の名にかけて、ノアに危険が迫ったら駆け付けて守ると誓ったのに、果たすことができずに死なせてしまった。

 手元に残ったのは、ノアの両親に頼んで譲ってもらった、裂けて血に染まったノアのマントだけだ。


 すべてがもうどうでもよかった。ロラ王女と結婚したのはいつのことだったか、月日がどのくらい経ったのか、騎士としての鍛錬をするときだけは正気に戻り、宮殿内の敷地に設けられた新居に帰ると酒を浴びるほど飲んで、意識を失うように眠った。


 そんなある日、幽霊を見たという噂話を耳にしたヴィクトルは、幽霊を怖がる人々が、寄り付かなくなった庭を訪れた。

 何日も通いつめたが、それらしき霊は見当たらない。所詮噂は噂で、暗がりに怯えた近衛兵が、動いた枝を霊と勘違いしたのだろうと結論付けた。

 でも、会いたさが募り、結局真夜中にふらふらと庭に降りていく。

 今夜も深酒をして黒髪も服も乱れたヴィクトルが、王宮の庭園に置かれたベンチにストンと腰かけた。普通に腰かけているつもりでも、力の入らぬ身体がベンチの背をすべり、だらしない恰好で背にもたれかかる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る