第7話 奇妙な噂1
ノアが負傷したと聞いたとき、ヴィクトルはまさに舞踏会を抜け出そうとしているところだった。嘘だよな? 冗談に違いない。
胸が圧迫されるような不安を抱えたまま、さっきまでノアと会っていた場所まで走る。近衛兵のマントを身体に巻き付けた王女が、ヴィクトルを見つけて走り寄ってきた。
近衛兵の足下にはプラチナブロンドの男がうつぶせに倒れている。抱き着こうとした王女をかわし、ヴィクトルは倒れている男の元に駆け寄った。戦場で嗅いだのと同じ血の匂いが鼻につく。
「ノア? ノアなのか? 目を開けてくれ。どうしてこんな。背中が……」
背中をゆすってノアを起こそうとしたヴィクトルの手が、生暖かいものでぬめった。
真っ赤に染まった手で、近衛兵の上着を摑んで揺さぶる。
「貴様がノアを斬ったのか。背中を向けた相手を斬るなど卑怯者のやることだ。俺がお前を殺してやる」
ヴィクトルの激しい怒りに恐れをなした衛兵が、王女が襲われていたとどもりながら説明する。
「嘘だ! ノアが女性に手を出すはずがない。ノアも俺も戦争の後遺症で、今は色欲など感じないと悩みを打ち明けあったばかりなんだ。あの地獄絵を作った自分たちが、終戦からたった半年で素知らぬ顔で誰かと幸せな家庭を作ろうなどと思えるものか」
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