第5話 騎士の誓い6

「いちおう結婚を思い描いてみたということか」

 ノアが拗ねてみせると、ヴィクトルが慌ててノアの手を取った。


「違う、誤解するな。ノアはこの手で、女性に触れられるか? 俺はまだあの生々しい地獄の夢を見る。この血塗られた手で白い肌に触れたら、べったりと赤い手形がつきそうで、幸せな未来を思い描くことなんてできない。俺を理解してくれるのは、同じ地獄を味わったお前だけだ」


 らなければ殺られる。戦争という大義名分はあったけれど、自分たちがしたのは人殺しだ。ノアだって必死で剣を振るったが。戦場では見えなかった相手の怯える顔が、悲鳴が、生臭い匂いが夢の中で蘇り、絶叫して飛び起きることがある。こんな状態でよく知りもしない女性と家庭を築き、子供を育てるなど到底無理だ。


「ヴィクトルの気持ちはよくわかる。僕も同じだから。騎士たるものは強くあらねばならない。僕たちはそんな理想に縛られて、怖い苦しいという本音をだすこともできない」


 ノアを労わるように、ヴィクトルがノアの頭を撫で頬へと手を滑らせる。最終的は肩で止まった手に力が入った。


「初めて出会ったときに、ノアのことは俺が守るといったのを覚えているか?」


「ああ、覚えているよ。まだ子供で身体が小さかった僕を心配して、ヴィクトルは戦争に行ったら僕を守ると言ったんだ。あの頃からヴィクトルは身体が大きかったから、兄貴風を吹かせたんだよね」


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