第5話 騎士の誓い5

 かさりと背後で草を踏みしめる音が鳴り、俊敏に振り向いたノアの目に、見つかって残念がるヴィクトルの姿が映った。


「俺の大事な魂のパートナーの頬を、いきなり叩かないでくれ。びっくりするじゃないか」


「ばーか。僕の頬は僕が自由にしていいの。ちょっと気合を入れただけだから」


「それにしては強く叩きすぎじゃないか? 真っ赤だぞ」


 ベンチの隣に座ったヴィクトルが、ノアの顔を覗き込む。また馬車の中のシーンが頭に浮かんで、ノアは余計に真っ赤になった。


「叩いたからじゃないよ。ちょっと思い出して……おっと、変な想像を口にするなよ。ヴィクトルにご執心の王女が聞いたら、違う意味に取られて、君も僕もただでは済まされないだろう」


「王女には、誤解させた方がいいんだ。俺はあの王女とは結婚したくない。だから、それとなく思い合う相手がいると匂わせた。だいたい王女なら、普通身分のつり合いを考えて、結婚相手は隣国の王子か国内の公爵を選ぶものだ。何も好き好んで伯爵家の嫡男でもない三男の俺なんかに、色目を使わなくてもいいのに」


「財産があろうとなかろうと、ヴィクトルは容姿も頭脳も優れているし、早くも騎士になったのだから、君自身に価値があるんだ。将来の有望株を、女たちが放ってはおかないのも無理はない。だから王女も必死なのさ」


「噂ではそんなかわい気のある女性じゃないらしい。王太子や次兄の侯爵とは、十歳以上年が離れて生まれた姫だから、かなり甘やかされて育ち、我儘放題で手がつけられないと聞いたことがある。言うことを聞かない者にはかなり残忍な仕打ちをするそうだ。身分的にも逆らえない俺が王女と結婚したら、地獄を見るな」


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