第2話 舞踏会2
月明りのない庭に、外灯の周囲だけがぼんやりと明るんでいる。
鬱屈した顔を誰にも見られたくなかったノアは、外灯の届かない木の下のベンチに腰を下ろした。
「ずっと一緒に戦ってきたのに、あいつの騎士の叙任を近くで祝うこともできないなんて、やりきれないな」
ただでさえヴィクトルは伯爵家の三男でノアは子爵家の次男と爵位が違う上に、ヴィクトルが騎士になれば当然扱いが変わって、一従騎士であるノアとは関わりあう機会が減る。
ふと以前の祭りの夜が頭に浮かんだ。
飲み会を許された兵士たちが、女がいないと寂しいと騒ぎだし、どこから調達してきたのか大きなドレスを何枚も持ってきた。
兵士たちの中でも身体が少し小柄で女顔のノアは、真っ先に女役に指名され、嫌がるのを押さえつけられてシャツの上からドレスを着せられた。
いつもはノアが絡まれると真っ先に間に入るヴィクトルが、そのときは助けてくれなかったのが不思議だった。
だが、そんな疑問はすぐに消し飛んだ。ドレスを着たノアを見て目をまん丸に見開いたヴィクトルが、傾けたジョッキからエールをこぼしてズボンを濡らし、みんなにからかわれたからだ。
いつもきりりとしているヴィクトルの間の抜けたような顔は、二度とお目にかかれないだろう。思い出すだけで笑いがこみ上げる。
あのときみたいにドレスを着て舞踏会に乗り込んだら、みんな大盛り上がりして、ヴィクトルと踊るのを笑って許してくれるだろうか。
溜息をこぼしたノアは、話すためだけに女装するという馬鹿げた妄想を振り払った。
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