第2話 舞踏会1

「新月か。暗いな」

 まるで僕の心のようだ。


 ノア・クリントスは舞踏会が開かれている大広間の窓からテラスに出て、宮殿の整えられた庭へ続く階段を降りかけた。

 振り向けば、煌々と灯ったシャンデリアの下で、粋な衣装に身を包んだ貴族の男たちが、色とりどりのドレスをまとった令嬢たちをくるくると回している。翻ったドレスの裾はまるで風になびく花びらのようだ。

 その中でもひときわ目を引くのは、ハリフォード伯爵家の三男のヴィクトル卿だ。戦で手柄を立て、17歳になったばかりで早くも騎士に叙任されたヴィクトルは、人より頭一つ抜き出ているほどの長身で、艶のある黒髪と青い瞳が精悍な顔を引き立てている。


 数多の未婚のレディーたちが秋波を送っているが、ヴィクトルを慕う王女ロラが独占しているので、指をくわえて見守るだけだ。

彼女たちばかりか、ヴィクトルの親友であるノアでさえも近づけない状況だった。

 毎日の武術の鍛錬や戦場であんなにも近くにいたヴィクトルが、今ではまるで別世界の人間のように、ロラ王女を腕に抱いて滑るように踊っている。

ふとヴィクトルの視線がさまよい、テラスの階段に立つノアをかすめた。無理なターンでこちらに身体を向けると、今度は迷いなくノアを捉える。

 ヴィクトルが自分を見ていないことに気が付いたロラ王女が、ヴィクトルの視線を追ってノアを見つけると、凄まじい形相で睨んだ。

 これはまずいとばかりに、ノアは階段を降りて庭木に紛れた。


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