騎士の誓い
マスカレード
第1話 プロローグ
王宮の庭園のベンチに黒髪を乱した一人の若い男が、座面から滑り落ちそうな恰好で腰かけている。
凛々しく整った顔立ちと体格の良さが騎士を思わせるが、襟元のクラヴァットはだらしなく垂れ下がり、赤らんだ顔と潤んだ瞳が相当酒を飲んだことを物語っている。
今夜は月のない新月で、ある噂のせいで真夜中に外を散策する酔狂な者はいない。黒髪の男の身体は弛緩しているが、青い瞳だけは暗い闇に沈んだ庭園を、端から端まで見回すように左右に動いていた。
やがて、暗闇の先から音もなく誰かが近づいてきて、黒髪の男が目を見張った。
「ああ、ノア。会いたかった。ここで金髪の男を見かけたという噂を聞いて、ほぼ毎日通っていたのに、今までどうして俺の前に姿を現わしてくれなかったんだ」
ノアと呼ばれたプラチナブロンドの美しい男は、怒りと憎しみを込めたバイオレットの瞳を黒髪の男に向けた。
ノアが腰に差した鞘から剣を抜く。黒髪の男は怯えるどころか、唇に笑みを浮かべてクロヴァットを襟から引き抜き、胸元をはだけた。
「さあ、刺せよ。騎士の誓いを守れなかった俺に、とどめを刺してくれ」
騎士の誓いと聞いて、剣を持った男がびくりと反応したが、耐えかねるように目を伏せて背中を向ける。マントには切り裂かれた跡があり、夥しい血にまみれていた。
「待ってくれ、ノア。行くなら俺を連れていけ」
ベンチから立ち上がった黒髪の男は、酔った脚で必死に追いかけようとするが、大怪我をしているはずのプラチナブロンドの男に追いつけない。
結局姿を見失い、黒髪の男は地面に崩れ落ちて慟哭した。
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