第5話 飛翔

喫茶店 「夜」を後にし、 再び草原に⽴つつごもり

少し前⽅には向き合う形で桐都が⽴っている。


「・・・じゃ、⾏きましょうか。」

「はい、よろしくお願いします。それで、僕はどうしていればいいですか?」

「そのまま⽴ってればいいわ。」


きりがそう⾔った直後、晦の体は⾳も無く空中に浮かび上がる。

上昇は地表から両⾜が⼆⼗センチ程離れたところで終わり、晦の体は中空に固定される。

空中で完全に静⽌しているため、「空中に⽴っている」という表現が適切な状態だ。


浮遊後の晦が狼狽していないことを確認した後に、桐都は指を鳴らす。

すると、桐都の両⾜が地から離れ、空に向かって上昇していく。

空へとゆったりと昇っていく桐都の体を追う形で、 晦の体も晦の意思に関係なく、空への上昇を再開する。


上昇が⽌まったのは、地表から⼆⼗メートル程度の地点に⼆⼈が到達したタイミングだった。


「もっと上がれるんだけど、あんまり⽬⽴つと⾊々寄ってきちゃうのよね。」

独り⾔のようにそう⾔った後、桐都は左⼿で地表のある地点を指し⽰す。

その先を晦が⾒ると、そこには町のようなものが⾒えた。


「あそこが今から私たちが⾏くところ、「」の中⼼地よ。」

「・・・あれが。」

「それじゃあ、 今からあそこに向かって⾶んでいくけど、 結構なスピード出すから、 ⾆噛まないようにしなさいよ。」

「はい。」

その⾔葉を最後に晦は⼝を閉じる。


次の瞬間、⼆⼈の体は落下するかのような速度で 「異都」の中⼼地に向かって⾶び去っていった。


暫くの⾶⾏の後に桐都と晦は「異都」の中⼼地に降り⽴つ。

「異都」の中⼼地、そこは様々な商店が⽴ち並ぶ商店街だった。

先ほどまで⼆⼈が居た草原とは違い、⼈々が往来し、活気に満ちている。


「どう?空を⾶んだ感想は。」

いたずらっ⼦のような笑顔を向けながら桐都は晦に問う。

「・・・思っていた以上の速度だったので⾯⾷らいましたけど、悪くはなかったです。」

若⼲呆れたような⼝調で晦は返答する。


「なら良かった。それじゃあ⾏きましょ。 ここは⾒せたかっただけでホントの⽬的地ここじゃないから。 」

そう⾔いながら桐都は歩き出す。

その背を追いながら晦は問いを⼝にする。


「どこに⾏くんですか?」

⾜を⽌めることなく桐都が答える。


「図書館よ。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る