第10話
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アレクとアレイシアに押し切られる形で、オーギュストはアレイシアとの旅行を敢行することになった。
名目は、騎士団会議への出席と研修への参加という事にした。
今年のテーマは「騎士団における福利厚生の充実について」であるから、事務の裏方を一手に引き受けてきたオーグや、アレイシアの指名は最適であり、誰も疑いもしない。
それでも翌早朝、なるべく目立たぬよう、二人は旅立つことにした。
見送りは、団長のアレクと、門番の老兵士の二人だけだ。
老兵士が感慨深げにオーグに話しかけた。
「若・・・こんな日が来てしまうと、内心恐れておりました」
「若には、ここで生き生きと過ごしていただきたかった」
老人はオーグの素性を知る人物だったのだ。
「なぁに、爺よ、案ずることは無い」
「俺は最高の友と、最愛の家族を、既に得ている」
「これで少なくとも、あと100年位は、一人でも王宮で戦えるさ」
オーグは力強く答える。
「・・・ご立派になられましたな、若」
「アレクサンドロス殿、そしてアレイシア様・・・若を何卒宜しくお願い申す」
そう言って深々と頭を下げる。
「えっと・・・あの、おじいさん」
「おじいさんって、一体」
老兵の正体を知らぬアレイシアが尋ねた。
「そうか、話していなかったね」
「爺は・・・前宰相フォン・ヨハネス公爵だよ」
「ええっ?」
「し、知らない事とはいえ、ご無礼な事ばかりで、申し訳ございませんでした!」
「もうっ! オーグったら、はやく教えてよ!」
アレイシアは真っ赤になってオーグに八つ当たりする、
「ご、ごめんごめん」
オーグはアレイシアの剣幕に押され、謝るしかないといった様子だ。
そしてその横で、アレクがニヤニヤしながら見ている。
ヨハネス老は、若き「家族」の仲の良さを目の当たりにし、嬉しさの余り目を細めた。
聡明だが、いつもどこか醒めて、心を閉ざしていたオーギュストに、こんなにも心開ける相手が出来たのだ。
「ところで若、そしてアレイシア様」
「・・・和子がお生まれになりましたら、真っ先に、この爺に抱かせてくだされよ?」
「・・・のう?アレクサンドロス殿」
不意を衝かれたアレイシアとオーギュストは、顔を赤くする。
アレクの大笑いが響いた。
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