第9話



「お、おい!!」

「君は一体何を言って・・・」


オーグは、アレイシアの正気を思わず疑う。


「落ち着くんだ」

「私がいなくなったって第三騎士団もある、それにアレクだっている」


思わずアリーの肩を掴んで、説得に入る。




「落ち着いているわ、オーグ」

「私は真剣で、冷静だもの」


オーギュストは、アレイシアの表情を覗き込む。

確かに彼女が言う通り、表情も目に浮かぶ光も、冷静なもののようだ。

それだけに、なおのこと、アリーの発言の真意が理解できない。




「諦めるこったな、オーグ」

「・・・お前の負けだ」



施錠したにもかかわらず、いつの間にか侵入したアレクもまた、どうやらアリーの味方のようだ。



「どうかしてるぞ、アレク、気は確かか?!」



「ああ・・・お前よりは確かだよ、オーグ」

「まあ、アリーの話を聴けよ・・・悪友」

動揺を隠せないオーギュストに対し、アレクサンドロスは落ち着き払った態度のままだ。




「オーグ、貴方が国王陛下になることは受け止めました」

「私も貴方が王だったら、良い国をつくれると思うから」

「そして、私を側室や妾姫にするのは、嫌なんでしょう?」

「もう!・・・根は真面目で、融通の利かないオーグらしいね」


そう言うと、アレイシアが嬉しそうにクスっと笑う。

思わずゾクッとするような、魅力的な姿だった。


「でもね、オーグ」

「私、黙って引き下がるつもりは無いの」

「大好きな人の子供は、しっかり生ませてもらうから!」


発言の物騒さとは裏腹に、アレイシアの目には、健全な力強さが宿っている。



「・・・でも、その子は」

オーグが懸念を口にしようとした瞬間、アレクが大声で被せてくる。


「バーカ・・・そのために俺がいるんだろうが」

アレクは、妙に嬉しそうだ。



「・・・おまえたち」




つまり、二人は今後もオーグを孤独にするつもりはサラサラないと宣言したのだ。


オーグが王になり、二人と疎遠になっても、血の繋がった家族が残る。

そして、愛する女性と、その子を本当の家族として、命懸けで守ってくれる、無二の友がいるのだ・・・この第三騎士団に。


自分の心の拠り所を・・・二人が残し、守ってくれる。

こんなうれしい事があるだろうか?


だが、オーグは、自分が大粒の涙を流している事に、最後まで気がつかなかった。

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