第8話
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「寂しくなるが、仕方がない」
オーグはそう呟いて、王城に戻る準備を始めようとした。
楽しみだった、アリーとの旅行はもう無理だ。
行けば、別れが辛くなるだけで、未練しか残らない。
「まぁ、俺はしょせん、そういう星のもと、なんだろうな」
フッと苦笑いが、浮かんだ。
自分の執務室の書類でもまとめて、引継ぎの準備でもはじめよう・・・・
「オーグ! どこにいるの?」
どこからか、アレイシアの声が聞こえる。
「オーグ! 返事して!!」
アレイシアは、自分のファーストネームを、大声で呼び捨て、呼んでいた。
慎重で控えめな彼女らしくない行動だ、それに自分が王位を継ぐことは、いずれ第三騎士団の連中も知ることになる・・・今のアリーの行動は、彼女にとって不利益になる。
「アリー・・・こっちにおいで!」
やむなくオーグは、副団長の私室へアリーを引き入れた。
内から鍵をかけ、音が漏れない部屋の奥にアリーを座らせる。
「どうしたんだい? 君らしくもない大声で」
オーグはアリーの意図を図りかね、思わず問い質す。
「こうでもしなきゃ、オーグは二人きりで会ってくれないと思ったの」
・・・図星だった。
これ以上会えば未練が残る、だから、二人きりになるつもりは無かった。
「オーグ」
「・・・絶対に叶えて欲しいお願いがあります」
アレイシアの表情は真剣だ。
その愛らしさに、抑え込んでいた彼女への愛情があふれ出そうになる。
「・・・言ってごらん、できるだけ叶えるよう全力を尽くすから」
必死で衝動を抑えて、オーグは穏やかな物言いに努める。
だが、アレイシアの願いを聞いた瞬間、自分が辛うじて保っていた冷静さが、跡形も無く消し飛んだのを自覚した。
「私・・・オーグの子供が欲しいの」
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