呪術について詳しく聞く
「それで? アナタ様は祈祷師である私にどのようなご依頼をお考えですか? 祈祷代は一律十万円とさせて頂いておりますが大丈夫でしょうか?」
「十万か。それくらいなら許容範囲だな。でもその前に率直に気になる事を聞かせて貰っていいか? 祈禱師と呪術師って何が違うんだ? 俺は呪術師だって聞いてここまで来たんだが、実際には違うのか?」
「わかりやすく言うと、祈祷師とは
「ふぅん。善い事か悪い事かの違いか。という事はアンタの本業は人を幸せにする術師って事か。ちなみに人の幸せを祈禱するってのはどんな
「無病息災、家内安全、良縁、学業成就など多種多様でございます。一番人気はやはり無病息災でしょうかね。重病にかかるのは人間であれば誰であっても怖いと思いますからね」
「何だか神社で買えるお守りみたいな内容だな。どうせならアンタのその大火傷とかをパっと治せる呪いとかねぇのか? ははは」
「既に病気や怪我を負ってしまっているのを祈祷で治すのは不可能です。そもそも病気やケガを治すのはお医者様のお仕事ですので。まぁ餅は餅屋という事ですね」
「ん。そりゃあそうか」
俺は空気を和ますために笑いながら軽口を叩いていったんだけど、呪術師はそんな軽口に乗らず正論で返してきた。なんだかつまらないヤツだな。
「はい。もしも病気や怪我をするのが怖いという事でしたら、無病息災の祈祷がオススメですよ。アナタ様の守護霊を呼び起こして、今後アナタ様が病気や事故などの命の危機に瀕する場面を守護霊が防いでくれます」
「いや別に要らねぇわ。病気とか事故なんて怖くねぇし。他になんかもっと面白そうな呪いはあったりしねぇのか?」
「他に面白そうなものですと、寿命授受の祈祷もございます」
「寿命授受? なんだそれ?」
「名前の通り寿命を受け渡す事が出来ます。寿命幾何もない方が心残りを叶えるための呪いです。寿命を頂く事を事前に了承した他者様から寿命を頂戴し、その頂いた寿命分が自身の寿命に加算されて、その寿命分だけ必ず生きるという呪いです。お子さんやお孫さんの結婚式や大切な式典に参加したいのだけれども、余命宣告されてしまって参加する事が困難になってしまっていた御父母や祖父母様に大変喜ばれている呪いとなります」
「ふぅん。まぁ確かにそういうのは幸せになりそうだし需要はありそうだな」
まぁ本当だったらの話だけど。絶対に病気にならないだとか、余命宣告を受けても生き延びる事が出来るだとか……正直胡散臭いな。
それに十万円っていう金額も微妙に訴えられないくらいの値段設定にしてる気がして怪しい匂いがプンプンとしているよな。
「という事で以上が大まかな祈願の
「特にはねぇな。幸せそうな祈祷を紹介して貰って悪いけど、そういうのには一切興味がねぇんだ。俺はそんな幸せを祈る祈祷じゃなくて……人を殺せる呪術を頼みたいんだよ。サクっと人を殺せる呪術を頼めるか?」
「……ふむ、人を殺める呪術ですか。穏やかな話ではありませんね。一応話を聞かせて貰っても良いですか? アナタ様が殺したい程憎んでるお相手様は一体どのような方でしょうか?」
「俺が元居た会社のクソ上司だよ」
「元会社の上司様ですか。どうしてその元上司様を殺めたいのですか?」
「簡単な話だ。アイツは毎日クソみたいな言動、行動を取ってたゴミクズ男だったんだ。パワハラ、セクハラ当たり前だし、サビ残とか休出を強要してくるゴミだ。罵詈雑言なんてしょっちゅうだ。それに部下の仕事の成果は全て取り上げるのに、自分の失態は全部部下に押し付けるとかかなり終わってたんだよ。はぁ、マジで今思い出してもイライラするな……今は就職氷河期時代だってのに無理やりクビにしやがってよ……!!」
あまりにも劣悪な会社環境だったけど、会社を辞めさせられたら再就職するのがかなり難しい時代だから、俺は頑張って毎日死ぬ気で働いてたんだ。
それでも毎日クソ上司によるパワハラや罵詈雑言に耐えられなくなってしまい、俺は何度かの口論の末に、ついカッとなって上司の事を殴ってしまったんだ。
でも別にそんな大した威力で殴った訳じゃない。力いっぱいぶん殴った訳ではなく、多少小突いた程度の話だ。
それなのにあのクソ上司は思いっきり痛いフリをしやがったんだ。しかも病院で怪我をした証明書まで持ってきやがった。そんで傷害罪で訴えられたくなかったら、さっさとこの会社を辞めろと脅してきやがったんだ。
この就職氷河期時代で会社を辞めたら再就職が出来なくて大変な目に遭う事がわかってるのに……アイツは俺の事を口答えしてムカツく部下だったというだけの理由で、俺の事を辞めさせようとしてきたんだ……。
もちろん俺は犯罪者になんて絶対になりたくないので、俺はそのクソ上司の言い分を受け入れて会社を辞めたという訳だ。今思い出してもイライラする……俺はマジメに毎日働いてただけなのによ……!!
「なるほど。どうやらアナタ様は元会社で大変辛い目に遭われたようですね。心中お察しいたします」
「あぁ。そんな訳で俺はそのクソ上司をぶち殺してやりてぇんだ。でも俺は警察に捕まりたくなんてねぇからな。だから呪術で殺して欲しいんだ。人を殺せる呪術は頼めるか?」
「はい。呪殺はもちろん可能でございます。証拠など見つかる事もなく殺める事が出来ますのでご安心ください」
「それなら良かった。それじゃあサクっと呪殺を頼みたい。呪殺をするにあたって何か必要になるものとかあるか? 呪術っていうからには相手の髪の毛とか身の回りの物が必要になるのか?」
「いえ。呪術を行うには相手様の顔と本名がわかれば問題ありません。アナタ様の頭の中にお相手様の顔と名前を思い浮かべていって頂ければそれで呪術は行えます」
「えっ? そんな簡単に呪術を完遂できるのか?」
「えぇ、もちろんです。伊達に長らくこの稼業を続けてる訳ではありませんからね。ですが祈祷ではなく呪術依頼ですと料金は一律百万円の前払いとさせて頂いております。それでもよろしいでしょうか?」
「え……って、はぁ!? 百万円!?」
俺はその値段を聞いて驚愕とした。まさかそんな高額な値段を要求されるとは思わなかったからだ。
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