社の中の客室に案内される
「こちらが社の客間です。そちらの椅子にお座りください」
「わかった。それじゃあ失礼する」
案内された椅子に座った。包帯男も俺の対面の椅子に座ってきた。そして包帯男は俺に向かって深々とお辞儀をしてきた。
「それでは改めまして。私はこの町で祈祷師をしております、
「どうも。俺の名前は……」
俺は呪術師(と名乗る男)に向かって自己紹介をしていった。
「はい。丁寧に自己紹介をして頂きありがとうございます。改めましてよろしくお願いします」
「あぁ。とりあえず一服しても良いか? さっき途中でタバコを吸うの止めちまったから、とりあえずヤニを入れさせてくれねぇかな?」
「もちろん構いませんよ。テーブルに置かれてる灰皿とライターをご自由にお使いください」
「助かる。それじゃあ……」
―― シュボ……
俺は呪術師に断りを入れてから一服をし始めていった。ヤニが切れかけていたので助かる。
「ぷはぁ……ふぅ、落ち着くな。それで? アンタの呪術というか祈禱ってのは儲かってんのか? 客はちゃんと来てるのか?」
「顧客情報に結び付く恐れがありますので、お客様が来ているかどうかについては秘匿とさせていただきます。まぁそれなりに生きていく分には困ってないとだけお伝えしときましょうかね。ふふ」
「ふぅん……ま、アンタの懐事情を知りたい訳じゃないから別にいいや。あ、そうだ。もう一つ聞きたい事があったんだけどよ、桜木山の入口前に立てられてた奇妙な看板を見つけたんだが、あれって一体何なんだ? アンタが作った看板なのか?」
「奇妙な看板? あぁ、あの入口前の看板ですか。あれは昔このS町で起きた事件の名残として残されてる看板ですよ」
「昔の事件? あんな奇妙な看板が必要になる事件って一体どんな事件なんだよ?」
「明治時代の話なのですが、当時の町長は過疎化の一途を辿っているこのS町を活性化させるために土地開発を推進する計画を立てていました。近くの市町村と合併していき、大きな都市にまで発展させていくという計画を練っていたのです」
「町の地域活性化のために土地開発か。まぁ田舎町ならどこでもあり得る話だな。でもそんな計画があった割には今も過疎ったままな気がするけど?」
「それは当時の土地開発事業に町の住民が大反対したからです。町の田畑を潰して国道を作る計画や、森林伐採をして広大な土地に大企業の工場を建てる計画、さらにこの桜木山を潰して巨大な住宅地を建てる計画などなど……大規模な土地開発事業を計画していたのですが、それに町の住民は激怒して大反対したのです」
「ふぅん。まぁ確かに今まで住んでた地元住民からしたら、そんな計画だと嫌がりそうかもしれないな」
「はい、そうなのです。ですからその当時は毎日のように役人と町住民による激しい争いが起きておりました。こんな過疎地ですからニュースには全く取り上げられませんでしたが……かなり血みどろな争いにもなっていたそうですよ」
「血みどろな争いか。何だか物騒な言葉だな。でも何となく察したよ。という事はつまりあの桜木山に立っていた看板は……」
「えぇ、そうです。当時この桜木山を潰そうとしていた役人達を追い払うために町民全員で看板に“引き返せ”と文字で書いたそうです。最初は町民全員の血文字で“引き返せ”と書き込んでいったそうですよ。まぁでも血文字では雨で簡単に消えてしまうという事で最終的には赤色のペンキで書くようになったらしいです」
「なるほど。だから赤い文字で引き返せってビッシリと書かれてたって訳か。でもそんな物騒な看板を今も残している必要はねぇだろ。何で直さないんだ?」
「さぁ。町の財政が厳しいからじゃないですかね。町の政治には興味がないのでそこら辺は私にはわかりかねます」
「財政難か。まぁそれはあるか」
そういえば駅に掲げられてた垂れ幕もボロボロだったもんな。ああいう町のシンボルになるような垂れ幕を修繕する金がねぇって事は、この山の看板を修繕する金も無いに決まってるよな。
「何だかどこも世知辛い世の中で嫌になるな。だけどこんな穏やかそうな町でそんな血みどろな物騒な事件が起きてたなんてビックリする話だな。一見しただけではそんな物騒な事が起きてた町には全く見えないってのによ」
「えぇ、本当にそうですよね。当時の事件から得られる知見としては、人間というのは欲をかき過ぎると誰よりも恐ろしい化物になるという事です。アナタ様も欲のかき過ぎにはご注意を。ふふ……」
「……は、はぁ?」
呪術師の男は意味深にそんな事を言ってきた。でも俺は訳がわからず生返事で返してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます