第8話 俺の本気の走りを見せる時が来ました!


「こんにちは、アスモ デウスです。」


「ふぁぁぁ〜んっ」


朝から大欠伸しながら起きた。


横にはアビスがプヨヨヨンしてる。


「お前はちゃんと寝たりしてんのか?寝ないと大きくなれないぞ〜」


昨日の夜、アビスがテンション上がったからなのか、猛毒の霧を噴射された時にはビビったが……


プヨヨヨンしてるアビスを撫でてると癒されるぅぅ!


巨大わらび餅を触ってる感じ!やわらかぁい♡


昨日の夜はドタバタバッタンの夜だったから、ぐっすり眠れた〜!


けど、朝はやぃぃぃぃっ!


まだ、ちょっと暗いしぃぃぃっ!


でも、仕方なし……


俺が屋根に大穴開けたから、直さないとだよな……


正直……


めんどくさいな♡


だけど、サラさんのご両親が残した大事なお家!


ちゃんと直そう!うん!


俺はそそくさと準備を終わらせ、昨日の夜のうちに用意してもらった、DIYセットなる工具をもって、修繕を始めた。

……


ちゃんと始めた。スタートした!したよ!


でもさ!


修繕するにも材料がないじゃん!


無理じゃぁぁぁーんっ!


気持ちは直す気満々のクラウチングスタート状態だったけど


目の前にコースが無いため


クラウチングポーズだけで朝は終わったのだった。


とりあえず、ラジオ体操でもしといた。


サラ

『おはよう〜。起きるの早いわね』


サラさんが眠気が取れない様子で起きてきた。


屋根修繕するってこと忘れてるな……


「おはようございます!吹き飛ばしてしまった屋根と玄関のドアを直そうとしてました!」


サラ

『あ!そうよ!』


「でも、そもそも材料がなかったので、何も進められませんでした!」


サラさんは呆れた顔で

サラ

『そりゃ、そうでしょ。朝市場に行って材料買いに行きましょ』


あんれれれれれ〜?


今日の朝直せって言ってたじゃぁぁんっ!


早起き損じゃぁぁんっ!


サラ

『今、朝食作るから、ちょっと待ってなさい』


「あ、はい!なんかいろいろしてもらってすみません。ありがとうございます!」


サラ

『いいわよ。自分の分を作るついでだし、1人分追加するくらい問題ないわ』


サラさんは慣れた手つきで、朝食を作り始めた。


ホラーハウスだと思っていたサラさん宅は、

日当たりがよく、別の建物かと思うくらいだった。


俺はふと思った。


なんか新婚さんみたいだなぁんっ!


サラさんが料理しているところを、アビスと一緒に微笑ましく眺めていた。アビスが微笑んでいたかは分からんけど。


サラ

『ほら、出来たわよ!お待たせ!』


テーブルの上に置かれた朝食は、昨晩の料理と遜色ないくらい、とても美味しそうな料理だった。


俺は唾液を垂れ流すのを我慢するほどだった。


実は垂れていた。


サラ

『スライムって、何を食べるのかしら……?』


あんだけ警戒していたアビスのご飯のことも気にかけてくれてるぅぅ


ツンが基本だけど、根は思いやりのある優しいデレだよなサラさんて


やっぱり


ツンデレラさんだな。うむ。


朝食が済み、あと片付けをした俺たちは、屋根の修繕をするために、材料を買いに市場に向かった。


これって……


デートですか?


ねぇねぇ、買う物は全く色気はないけど、デートだよねこれって?……


サラ

『どうしたの?……なんか……顔が気持ち悪いわ』


さり気ない罵声にしっかりと傷つきつつ、俺はお花畑に意識を逃がした!


ムフフ……


1人頭の中お花畑でルンルンしてたらさ、


ドオォォォーン!!!

て、幼女が真横から飛んできて、俺の脇腹直撃!


「へぶらっしゃぁぁぁぁー!!」


サラ

『きゃぁっ!な、なに!?』


頭の中のお花畑が全て茎だけになった瞬間だった。


チュンっ!て茎だけになってた。


アビスはプヨヨヨン!って1人見事に回避していた!

ず、ずるいわっ!


「あ痛たたたた……」


耐久があるおかげで、致命傷にはなってないが


「き、きみ……大丈夫!?」


飛び級の幼女

『イタタ……あ!ご、ごめんねお兄ちゃん!!?』


「う、うん!だ、大丈夫だよ」


本当はあまり大丈夫ではないくらい痛い……すごく…


知ってる!?脇腹って!!

すっごく痛いんだからね!!


だけど、ここは大人の甲斐性の出番!我慢!

こんな小さい子に心配かけさせたらあっかーんっ!


そんな時、女の子が飛んできた方向から、体格の良いおじさんが出てきた。


The鍛冶師です!みたいなおじさんが。


The鍛冶師

『おい!あんたら!そいつに関わらん方が良いぞ!もしくは、可哀想かもしれんが、無理なもんは無理ってちゃんと言ってやれ!たくっ……』


そう言い捨てて、呆れながら去っていった。


飛び級幼女

『う……う……ぐす、ずっ、ふぇ、ふぇぇぇぇん』


急に泣き出した!


そりゃそうだよね……あんな勢いで飛ばされたら怖かったよね……

てか、なんで飛ばされてきたんだ?


「大丈夫?よしよし……びっくりしちゃったよね?痛いところはない?」


俺は体勢を起こし、飛び級幼女をなだめてみた。


だ、大丈夫だよね……セクハラとかロリコンとか……思われないよね!!?


飛び級幼女

「う゛わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん、ぶぇぇぇん」


案の定泣き止まず……


あまり子供相手にしたこと無いからこんな時どうすれば!?とパッとサラさんに目で助けを求める!


サラ

『はぁ……仕方ないわね』


サラ

『ほら、おいで』


そう言うと、サラは優しく飛び級幼女を抱きしめた。


飛び級幼女

『ふぇぇぇん……ぇぇん……ぐすっ、ひっく……』


すげぇサラさん!


まるで聖母のような優しさで包み込むかのごとくの抱擁!


俺も抱擁されたいっ!!はい、すみません。


まだ飛び級幼女は『ひっく、ひっく』してるけど、少し落ち着いてきたようだった。


サラ

『どこか痛いとこはない?』


飛び級幼女

『ひっく……う、うん……ひっく……ズズズッ!』


何か目的があるのか、鼻水をすすりながら、飛び級幼女の目に力が入ったように見えた。


サラ

『そう、良かったわ……それで、何があったの?』


飛び級幼女

「あのね!お母さんを助けてくださいっ!」


…………


サラ

『えっ!?……』


「えっ!?」


話の急展開っぷりに、俺もサラさんもポッカーーン…


飛び級幼女

『私ね!リリ!』


サラ

『り、リリちゃんね。私はサラよ。今何歳?』


リリ

『5才!』


ズズッ!と鼻水をすすりながら


リリ

『お姉ちゃん!お母さんを助けてください!』


サラ

『ちょ、ちょっと待って!どういうことか教えてくれる?』


リリ

『お母さんがね!病気なの!だからね!お母さんを助けてください!』


今にも泣き出しそうな顔をしているが、ギュッ!と唇に力を入れて我慢しているのが分かる……


リリ

『お願い!お母さん苦しそうなの!動けないの!だからね!助けて……おねぇ…ちゃ…助けてください!……ふぇっ』

そう言い切ると、また

リリ

『ぶぇぇぇぇぇん!』

と盛大に泣き出してしまった。


通行中の人の目を引いてしまったため、俺達はリリちゃんを、横道の通路まで連れて行ってなだめていた。


サラ

『お母さんが病気なのね……それは困ったわね……』


よしよし……と、抱擁しながら背中をトントン叩くサラさんを見て、何故か俺はそのシーンから目を離せなくなっていた。


なんか前にもこんなことあったような……


サラ

『お母さんが病気で動けないって言ってたわよね?どういう病気なのかはリリちゃんは分かる?』


ブンブンブン!っと、リリちゃんは首を横に振る。


リリ

『でもね!お母さん、足とかお手てがね!紫のとこいっぱいあるの!』


リリ

『朝ね!急にね、倒れちゃったの。それでお母さん動かなくなっちゃったの。リリね!いっぱい声掛けたよ!でも、全然動かなくなっちゃったの!苦しそうだったの……』

ふぇっ。とまた今にも泣きそうだった。


サラさんとリリちゃんのやり取りを見ていて、何も出来ない不甲斐なさに……


なんか俺、ほんっと……ダッサいなぁ…

疎外感さえ感じる……


独り立ち尽くし、そのやり取りを見守るしか無かった


サラ

『紫がいっぱい………。』


サラさんがリリちゃんの背中をトントンしながら、考え込んでいた。


サラ

『リリちゃん。お母さんお仕事してないかしら?もしかして冒険者じゃない?』


リリ

『ぼう…けん…しゃ?』


冒険者って言葉が、どういう事を指してるのか理解出来ていない様子だった。


リリ

『お仕事はしてるよ!けど、ぼう…けんしゃ?がわからない。だけどね、お母さんお仕事でいつもお家居ないよ!リリはお友達と遊んでお家に帰ってきても、お母さんいない時いっぱいあるよ!』


リリは分からないながらも、必死でサラさんに伝えようとしている。


心からお母さんを救おうとしてるのが分かる。


あれ?なんかやっぱり、似たようなことが前にもあったな……なんだっけ?


俺はデジャヴを見ているような感覚になるが、全く思い出せない……


とりあえず、動けないなら早く見に行った方がいいな!


「サラさん!まずはお母さんが動かないって言ってるから、リリちゃんの家に行ってみた方がいいんじゃないですかね!?」


ここで話しを聞いてても、一刻の猶予もない状態ならマズイと思った。


サラさん

『そうね!まずはリリちゃんの家に行ってみましょう!』


サラ

『リリちゃん。お家まで連れて行ってくれる?』


リリ

『うん!こっち!』


助けてくれる人が見つかったからか、少し元気を取り戻したかのように感じた。


俺たちは駆け足で急ぐリリちゃんの後を追い、リリちゃんの家へ向かう。


「サラさん。なんでさっき冒険者じゃないか。って聞いたんですか?」


サラ

『足とか手に紫が沢山ある。って言ってたじゃない?』


サラ

『それって毒の症状に似てるのよ。だから、アビスみたいな毒を使う魔物と戦ったんじゃないか。って、そう思っただけよ』


「なるほど、毒を喰らうと紫色のアザ?見たいなのが出てくるんですね。」


俺は毒は2度受けた事があるが、異常状態耐性があるから、症状を全く知らなかった。


サラ

『だから、アビスの猛毒の霧を喰らって、ヘラヘラしてるあんたがおかしいのよ!』


「で、ですよね〜。ハハハハハ」としか言えなかった。


サラさんは鋭利な言葉で心を抉ってくるが、そんなことよりも、まずはリリちゃんのお母さんだ!


リリ

『リリのお家ここだよ!』


ほぼ全速力と言っていいくらいで走っていたリリちゃんは『はぁ、はぁ』と息を切らしていた。


リリ

『お母さん!お姉ちゃん達連れてきたよ!大丈夫!?お母さん!お母さん!』


リリちゃんは、お母さんに駆け寄る。


サラ

『お邪魔するわね。リリちゃん、あまりお母さんを動かさない方がいいわ。ちょっとお姉さんにお母さんのこと見せてくれる?』


リリ

『う、うん!』


リリちゃんのお母さんは、今にも呼吸が止まりそうなほど微かなものだった。


医者じゃない俺でも、リリちゃんのお母さんが重体なのは理解できた。


サラさんは、お母さんの手足を見ていた。


サラ

『間違いないわ。毒よこのアザ。私も毒を受けたことがあって、その時は神官様に浄化して貰えたから良かったものの、浄化が出来なかったら同じようになってたわね。』


リリ

『お姉ちゃん!お母さん!大丈夫!?また元気になる!?』


サラ

『元気になるように、少しお兄ちゃんと話してくるから、お母さんの傍にいてあげてくれる?』


リリ

『うん!わかった!』


リリのハラハラしている様子が、すごく伝わってくる。


サラさんも何故か明るい顔ではない。


サラさんと2人きりになり、

「サラさん、神官様のとこに行けば治るんですよね?連れていかないんですか?」


サラ

『バカね!高いのよ!』


ん?高い?


「高いって……何が高いんです?」


サラ

『料金よ!浄化1回するお金で馬が買えるのよ!?緑ランクの冒険者が10回依頼をこなしてやっと手が届くかどうかの金額なの!』


俺は自分が無知なのを恥じてきた。


「す、すみません。まだこの街に来たばかりで……通貨の価値が分かっていなく……ほんと、すみません」


サラさんは、悔しそうな顔している。


サラ

『さっきリリちゃんを突き飛ばした男の人は、状況知って、自分じゃ助けられないって事がわかったのね。何度も何度も助けを求められたから、突き放したんだわ』


それでも吹き飛ばすくらい強く当たるのは間違っている!


5才の子供なんだから!


当たり前だろ!

あんな小さい子が、お母さん助けたいって思ってるんだから!

必死になるだろ!


俺は何故か、自分でも分からないくらい怒っていた。


腸が煮えくり返る様な感覚だった。


サラ

『たしかに。これは関わるべき内容じゃないかもしれやいわ』


「ダメですよ!助けてあげましょう!何か他に手はないんですか!?」


サラ

『無理よ!あなたもお金ないじゃない!テイムしたアビスはギルドでも引き取れないわよ!』


サラ

『私も今はもうないのよ!冒険者になった駆け出しの頃に、ヘルバイパーって蛇の魔物から毒を受けたけど!』


サラ

『その頃は、まだパパとママの残してくれたお金があったから浄化を受けれただけなの!弱い毒なら薬はあるけど、もうあの状態じゃ……!』


そんな……


サラさんも悔しそうなのが分かる。


分かるけど!!……


「そしたら……」


「お金を……」


「お金を……すぐに稼ぐ方法はありますか?手っ取り早い方法です」


サラ

『はぁっ?あるわけないでしょ!私達が受けられる依頼は緑ランクまでの依頼よ!』


「そしたら、流通している薬で、リリちゃんのお母さんの毒を軽減させることは可能ですか?」


サラ

『わからないわよ!痛みに効く薬草はあるみたいだけど、それも効くかは分からないわ!』


「そしたら、俺……冒険者ギルドに行ってきます。誰か相談に乗ってくれる人がいるかもしれない……」


サラ

『それも……たぶん無理ね。絶対じゃないけど。みんな、そんなに裕福じゃないのよ……』


サラ

『特に冒険者ギルドに集まってくるやつなんて、みんな生きていく事に必死で、日銭を稼ぐのにやっとなのよ』


「それでも!高ランクパーティの方々がいるかもしれません!少しでも可能性があるなら、行ってきます!」


「すみません!ちょっとアビス預かっておいてください!」

「アビス!大人しくしててくれ!」


サラ

『ちょ、ちょっとアモス!』


俺はサラさんの忠告を無視し、アビスを預けて、冒険者ギルドに猛ダッシュした。


転生前からも含めて、こんなに本気で走ったのは久しぶりだった。


俺は……


サラさんのように、リリちゃんを優しく包み込めないけど!


リリちゃんみたいに、お母さんを助けたい一心で、痛い思いをしても、諦めない強い気持ちは、まだ持ってないけど!


だけどさぁっ!!

俺にやれることがあって!

可能性が0じゃないならさぁ!


全部試す!!


なんの正義感なのか……


それとも偽善なのか……


俺にもよく分からない!


けど!


けどさ!


助けたいじゃんっ!


「おらぁぁぁぁぁぁぁっ!」


なりふり構わず……だらしなく……本気で走った!


息が切れてきた……


心臓の音がうるさい……


なんで俺は、見ず知らずの人を助けるのに、こんなに必死になっているんだろ……


何かが俺の中で引っかかっていた。


バァァァンッ!


サラさんの時みたいに、俺は冒険者ギルドの扉を勢いよく開けた。


「ハァッ!す、すみません!ハァッ…ハァッ…どなたか!…ハァッ…どなたか、高ランク冒険者の方はいらっしゃいますか!?」


冒険者ギルドに居た人達は、いきなり入ってきたやつが何言ってんだこいつ?みたいな顔をしていた。


「お世話がせしてしまい…ハァッ…本当に申し訳ないのですが、知り合いの母親が毒を受けてしまい『浄化』が必要なんですっ!」


「その母親には、小さい女の子がいるんです!」


「どなたか、お金の融通を聞かせていただける人はいませんか!?」


ハァッ……


ハァッ……


……


……


ブワァッハァッハッハッハッハ!!

ギルド内の冒険者達が全員が笑う。


何がおかしい?……


スキンヘッドの冒険者

『おめぇ、何言ってんだよ…クククク。毒喰らったその母親が悪いんだろ!なんで、俺たちがそいつのために金を……プッ……金を出すんだよ……ク、クク』


ブワァッハァッハッハッハッハ!!

また、嘲笑うかのような笑い声が盛大に建物内に響いた。


何が…おかしい……?


笑われることをしたのか俺は?


今にも死にそうな人がいるんだぞ?


……


ダメだ、落ち着け……

ここで俺がキレても、リリちゃんのお母さんは助からない……


こいつは無視しよう。


ふぅぅぅぅーーー

「誰かっ!必ず返しますのでっ!融通聞かせてくれる人いませんかぁぁぁぁぁーっ!?」


ロン毛の冒険者

『おい、坊主。諦めろ!今ここには高ランクパーティなんていねぇんだよ!』


スキンヘッドの冒険者

『ちっ!偽善者がっ!冒険者っつーのはなぁ、全てが自己責任なんだよ!』


スキンヘッドの冒険者

『死にそうなやつが誰だか知らねぇけどよ!そいつのために、なんで俺らが必死に稼いだ金を貸さなきゃなんねぇんだ!今日の宿代もギリギリなのによぉっ!』


バァンっ!と空いたグラスを机に叩きつける。


あんたは、それでも酒飲むくらいの金はあんだろうがっ!…………


クソ……


何も……出来ないのか……


自分の無力さに苛立つ……


八つ当たりでロン毛とスキンヘッドの冒険者をぶん殴りたい気持ちでいっぱいだった。


衝撃波で吹き飛ばす気満々だった。


だけど、そんなことをしてる暇は無い。


ここで騒ぎを起こす方が時間の無駄だ!


助けられる可能性がないことが分かった俺は、歯を食いしばり冒険者ギルドを飛び出した。


……


クソ!クソ!


何か他にできることは無いか。


この世界に来たばかりの俺には、この世界のルールや当たり前の情報が足りなすぎる。


もう一度、サラさんに相談しよう!


行きと同じくらい俺は、


本気で走った!


そして思い切り転んだ!鼻を地面に打ち付けた。


痛いっ!!けど!!


今は関係ないっ!!


涙目になりながら、だらしなく走った。


ハァッ……ハァッ……ハァッ……ハァッ……


「サラさんっ!!ブハァァッ!ハァッハアッ!」


サラ

『アモス!どうだった!?高ランクパーティはいたのっ!?』


「す、すみません!いませんでした!」


冒険者ギルドでのことは、話さないでおこう。


サラ

『そうよね……いないわよねそんな都合よく……』


「他にっ!!ハァッ……他に!何が思いつくことはありませんかっ!?」


「俺、この街に来たばかりなので、分からないことだらけで、サラさんが頼りなんです!」


なんで俺はこんなに必死に助けたいんだ……


分からない。けど、心が?胸の当たりが?


熱いんだ。


助けてあげたい。と思うんだ。


同情なのかもしれない、偽善なのかもしれない。


けど今はそんなことはどうでもいい!


サラ

『…………無理、ね。今この状態だと浄化以外の方法がないのよ。だから、お金を払う以外の方法はないわ』


「俺、土下座でもなんでもして、教会に頼んでみます!支払いは後日にできないかとか、相談してきます!」


サラ

『やめなさいっ!そんなことして、アモスが目を付けられるわ!あんたのスキル件バレたらどうすんのよっ!』


どうする……スローライフは諦めるか?

人の命がかかってるんだぞ…


でも、くっ!


……


どうするっ!!!?


考えろ!転生前で役に立つ情報がないか!


考えろ!!


浄化以外……医術、薬学、解毒、キュア、アンチポイズン、抗体、リカバリー、何か!


何か!!


毒……猛毒……


あ!アビスは毒を使えるぞ……


使えるってコントロール出来るってことじゃないか?


……


……


抗体……

抗体だっ!!


「アビスっ!!」


プヨヨ 〜ン!と俺の方に乗る。


「アビスおまえ、毒の抗体作れるか!?」


プヨヨンプヨヨンッ!と跳ねた。


アビスが跳ねている様子を見て、何故か肯定してくれているように感じた。


サラ

『ちょっと!何言ってんのよ!?デビルスライムは猛毒の霧を吐くだけで、浄化は使えないのよ!?』


この世界では『抗体』という言葉はないようだ。


「サラさん、すみません!少し黙っててください!」


サラ

『!!…………』


「リリちゃん、ちょっとごめんね。」


リリちゃんのお母さんは、出ていく時より呼吸がさらに小さく、今にも止まってしまうかのようだった。


「サラさん、ナイフとかありますか!?」


サラ

『使って!』


床を滑らすように投げてくれたナイフを受け取り、

リリちゃんのお母さんの腕を持ち上げる。


そして、俺は紫色になった斑点部分を少しだけ切った。


ジワっと血が滲む


リリちゃんは、お母さんの血を見て、とても不安そうに俺を見ている。


「大丈夫だよ」


俺は心配させまいと笑顔で答えた。


「アビス、血から毒の成分だけ吸い取って、この毒を中和する抗体を作ってくれ!」


アビスは触手のようにゼリー状の体を伸ばし、血に触れた。


トクントクントクン


血から毒だけを抽出しているようだった。


アビスの触手が、リリちゃんのお母さんから離れると。


アビスは携帯のバイブレーションのように、ブルブルブルブル!と震え出す。


頼むっ!

頼むっ!

頼むっ!


俺は切に願った。


アビスの震えが収まり、俺の手に向かって触手が伸びてきた。


触手の先から、何か丸い玉のような物?が出てきた。


デビルスライムと言われた黒いスライムから、絶対に出てこないであろう、純白の玉だ。


アビスと同じようにポヨポヨしている。


「アビス、これを飲ませればいいんだな?」


ポヨヨンと揺れた。


俺はその純白の玉をソッと、リリちゃんのお母さんの口に運ぶ。


「リリちゃんのお母さん、これ飲んでください!リリちゃんのためにも!」


そう声をかけ、聞こているのかいないのか分からないが、純白の玉を飲み込んだように感じた……


パァッ!とリリちゃんのお母さんが発光した。

全体を薄い白い膜のようなものが覆う。


サラ

『な、なんなの!?アモス!大丈夫なのこれ!?』


「大丈夫。なはずです!俺はアビスを信じます」


リリ

『お母さんっ!お母さんっ!』


その発光はほんの数秒だった。

その発行の光が消えると共に、リリちゃんのお母さんの腕にあった、紫の斑点は全て消えていった。


抗体を作ってもらおうと思ったが、完全に毒気が抜けているように見える。抗体以上の効果があった。


リリちゃんのお母さんの呼吸は、明らかに良くなっていた。

スゥースゥーと寝息を立てているようだった。


「よしっ!よしっ!」


俺は何度もガッツポーズをした!


「アビス!おまえ凄いぞっ!ハハっ!」

「大したやつだなぁ!」


俺はアビスをこれでもか!ってくらいヨシヨシした!


リリ

『お母さん!お母さん!……ねぇ、お兄ちゃん!お母さん元気になる?またリリ!って呼んでくれるようになる!?』


不安そうに、泣きそうになっている。


俺は、そんな不安を拭いとってあげようと、頭を撫でながら笑顔で答えた。


「大丈夫だよ。お母さんすっごく疲れちゃってるから、寝ているだけだよ!」


サラ

『う、嘘でしょ……?デビルスライムが……そんなこと有り得るの……?』


信じられない。という顔でアビスを見ていた。


サラ

『でも、良かったぁ……』


サラさんも助けたい。という気持ちがあったのは、分かっていた。


サラさんも気が抜けたようにその場にしゃがみこんでしまった。


俺とサラさんは顔を合わせ、お疲れ様。と言うように、お互い微笑んだ。


リリ

『お母さんっ!起きて!お母さん!』


「リリちゃん、お母さんは凄く大変だったからもう少し、寝かせてあげよ!」


リリ

「うん……」


5歳の子供だ。言葉では、信じられないのも無理はない。


「リリちゃん、よく頑張ったね!お母さんを治したのは、アビスだけどさ!リリちゃんがすごーーく頑張ったから、お母さんを治すことが出来たんだよ!」


「リリちゃんは、本当にすごいね!」


リリ

『うん!うん!リリね!おじさんにドン!って押されてもね!頑張ったよ!大きい声で怒られてもね!頑張ったよ!!』


リリ

『すごく怖かったけどね……がんばってゃよ……ふぇっ…』


そう言うと、リリちゃんの目が涙でいっぱいになった。


痛くて、怖くて、お母さんが心配で、凄く不安だったんだろう。

誰も助けてくれなくて、心細かったんだろう。


「よく頑張ったね」


もらい泣きしそうだったけど、グッ!と堪え、リリちゃんを抱き寄せた。


俺でも、ちゃんと安心させることができたんだろうか…


そう思った瞬間。


……


俺の涙腺の防波堤が決壊した。


「良かったねぇ、お母さん!治ってよかったねぇぇ」


リリちゃんと一緒に泣きながら、熱い抱擁を交わした。


リリちゃんのお母さん

『リリ……』


リリ

『お母さんっ!!』


リリちゃんは、お母さんへ駆け寄り抱きつく。

お母さんも優しくリリちゃん包む。


リリ

『お母さん!お母さん!もう、平気なの?痛いのもう治ったの?』


リリちゃんのお母さん

『うん、痛いのはもうない…みたいだね。紫の病気もなくなってるから大丈夫よ。心配かけちゃったんだね。ごめんね。』


リリ

『良かったよぉ。』


その姿を見て、俺もサラさんも涙を隠しきれずにいた。


リリちゃんをヨシヨシとなだめながら、俺とリリちゃんのお母さんの目が合う。


リリちゃんのお母さん

『あの、これは一体……あなた方は……?リリが何かご迷惑をおかけしましたでしょうか?』


記憶が曖昧なようだった。


俺は涙を拭いながら

「あ、違うんです。リリちゃんからお母さんが倒れて動かない。って助けを求められまして。」


「浄化じゃないと治せないほど、毒が回っていたのですが、俺の獣魔が毒の特効薬を精製してくれて、それでなんとか治せました!」


リリちゃんのお母さん

『あ、私の体にあった紫の斑点が無くなっていたのは、そういうことなんですね。』


お母さんから毒にかかった事情を聞いた。


サラさんと同じように、ヘルバイパーの攻撃を受けたらしい。


その時は毒にかかっていると思わずに帰宅したが、翌日の朝からの記憶があまりないようだった。


リリちゃんのお母さんから、それはそれはものっすごい謝罪と感謝をされた。


支払いをどうすればいいかと言われた時は、俺も焦ったがもちろん!もらってません!


ただ、アビスが毒を治癒出来るスライムだってことは、内緒にしてもらうようお願いしといた!


サラ

『そろそろ行くわよ!アモス!』


「あ、はい!それでは、お邪魔しました!」


リリ

『お兄ちゃん!お姉ちゃん!スライムさん!お母さんを助けてくれて、ありがとー!』


リリちゃんのお母さん

『お世話になりました!この御恩は忘れません!本当にありがとうございました!』


リリちゃんは、『またねー!』と、笑顔で手を振り続けてくれた。


この世界に来て最高の笑顔を見れた気がする。


ほとんどアビスのおかげで、リリちゃんのお母さんを助けられたけど、俺も達成感で胸がいっぱいだった。


サラ

『アモス!本当に良かったわね!アモスもよく頑張ったわ!』


「いや〜、本当に駆け回っただけで、あまり役に立たなかったですけどねぇ」


サラ

『そんなことないわ!アビスが毒を治すスキルに気づいたのは、アモスの助けたいって思いからじゃない!』


サラ

『ちゃんと胸を張ってもいいと思うわ!』


サラさんがやたら褒めてくれるから

ふざけるの無しで、心底嬉しかった!


あ、思い出した。


俺もリリちゃんと同じような事が子供の時にあったなそういえば。


婆ちゃんが倒れた時に、タイミング悪く俺と婆ちゃんしかいなかったから、俺も外に飛び出して助けを求めたんだった。


そうか……だからなんか引っかかってたというか、重なってたというか……


俺も助けられたように、俺もリリちゃんを助けられて良かった!


「そう言えば、修繕の材料、買いそびれちゃいましたね……」


サラ

『そんなの明日でいいわよ!リリちゃん達を助けられたんだし!』


気前がいいぃぃっ!


『そうよ!早く直しなさいよ!』って言われるかと覚悟していたけど、とりあえず今日は、サラさんのお家へ帰ってゆっくり休めそうだ。


うん!めっちゃ走ってすごく疲れた!


サラ

『アモス、今日はお疲れ様!』


クルッと後ろを振り返り、俺に労いの言葉をかけてくれた。


今日のサラさん


ツンがあまりなくて、デレか多くてかぁ〜わぁ〜うぃ〜いぃ〜!


「あ、そういえば、サラさん。俺、アモスじゃなくて、アスモですよ」


……


……


サラ

『そういうことはもっと、早く言いなさいよぉぉー!』


『気配察知』を使う間もなく、張り手が飛んできた!


バチィィィィィンッ!

いたぁぁぁぁぁいっ!


結局最後はツンがくるのねぇぇぇーっ!


「誰かたすけてぇぇぇぇぇーっ!」


(第9話に続く)

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