第59話 ギガスの呪い

 レイはセレジアがこれまでで1番に真剣で、声も低く真面目なトーンで話してくることに、自然と構えていた。


「……ギガスの呪い、それは俺が聞いていいことなのか?」 

「ええ、私が聞いて欲しいと思うから。ただ、口外はしないでほしい、私の家族しか知らないことなの。」

「分かった、俺に話してくれるってことはセレジアの力になれるかもしれないことだと思っていいか?」

「……我儘を言っていいなら、力を貸して欲しい。まずは、この呪いについて話すわね。」


 ギガスの呪い……セレジアの王家、レア家に代々継がれてしまっている呪い。


 呪いの内容は2つ。


 1つは、魔術適性を飛躍的に上昇させること。

 七石魔術シチセキマジュツを操るセレジアは、他の同魔術を扱う人間よりも巧みに扱え、体への負担も減らせられる。


 しかし、もう1つの内容が彼女の暮らしを苦しめている。



 


 それが2つ目の呪いだ。


 レイがこれまで凍らされてきたのは、魔術で防衛用に発動したのではない、常にセレジアが触れる、または触れられるものに対し魔術が強制的に発動され、どんな物体であっても凍らせてしまう。



 今となっては、七石魔術シチセキマジュツを操ることは容易いセレジアだが、全てを凍らせる呪いは抑えられなかった。



 そして、これはレア家の者が継いでしまう呪い。


 姉であるステラか、妹であるセレジアのどちらかが王女であるアリストアから継ぐことになり、セレジアは姉を守りたいという一心で自分が受け止めた。



 それが5歳の頃、それから人と触れることはなくなり、人の温かさを知ることはなかった。


 レイに抱きしめられるまでは。



「これが私の体の秘密なの、ごめんなさい、あなたに嘘をついていて。」

「……本当、ひどい人だな、セレジアは。」


 セレジアは俯き、レイはそっと立ち上がりセレジアの元へ寄る。


 セレジアは怒られると感じていた。

 それもそうだ、利用し利用される関係ではあっても、ウソをついて協力させるのは信頼関係を必要とすることにおいて、許されないことだと思ったからだ。


 レイの手が伸びてくるタイミングで、セレジアは強く目を瞑る。



 すると、


 フサッと頭を撫でられた。

 予想外の出来事に、目を見開きレイを向くセレジア。


「っ!?何してるの!あなたの手が凍ってしまう─。」

「俺をなめるな、そんな凍らせる力は俺が相殺すれば良いだけだろ。そうすれば、俺はセレジアに触れても俺もセレジアも傷つかない、なら問題ない。」


 レイは伸ばした右手に意識的に熱を込めるイメージを頭に描き、これまで熱で氷を溶かしたように、凍らされる前に熱で相殺し、優しく頭を撫でた。


 それはセレジアの心を大きく動揺させた。


(誰かに頭を撫でられるなんて、呪いを受けた時が最後だった。……温かい、レイの手は意外と大きい、良い気分になれる。)


 恥ずかしさを実感したセレジアはレイに対し、


「き、気楽に私に触れたら周りからどんな目で見られるか分かってる?」

「ここはセレジアの部屋だろ、俺たち以外誰もいない、ならセレジアが許してくれるならいくらでも触れられる。違うか?」

「そ、それは、そうだけど、気味が悪くないの?」

「だから前にも言っただろ?それは俺に対する嫌味かって。俺は記憶も感情も欠けてる、セレジアは呪われてる、似た者同士じゃねえか、むしろ親しみが湧いてる。」

「……ほんと変人ね、あなた。」


 レイの優しさに、セレジアの心は少し温まり、凍り付けられていた全身が少し溶かされた気がした。


 セレジアの頭から手が離され、座っているセレジアと立っているレイが目を合わせる。


「私のことを知った上で、改めて聞かせてちょうだい。レイ、私に力を貸してくれる?」

「当たり前だ、これから先俺にいろんなものを与えてくれるきっかけはセレジアなんじゃないかと思う。俺がセレジアを支えられるなら、何でもやらせてくれ。」

「嬉しいわ、本当に、これからもお願いね、レイ。」

「ああ!

「良いわね、その心意気。あ、因みに。」


 セレジアはそっと立ち上がり、レイに顔を近づける。

 その行動に、レイは焦りを感じると、

 15cmほど離れた距離で、


「私、約束を破られるのすごい嫌いなの。だから、私から勝手に離れたら凍り付けにするから覚悟してね。」

「うわぁ、束縛する系女子だったのか?」

「あら、私は欲しいものは全部手に入れるし、手放すつもりもないわ。面倒な女に目をつけられたこと、後悔しても遅いわよ!」

「はっ、上等だよ!その代わり、俺の役にも立ってもらうから覚悟してくれよ!」

「望むところ!お互い利用し合いましょう。」


 セレジアは、初めレイのことを自分の正体に気付いた人として、排除しなければいけないと考えていた。


 しかし、今は違う。


 お互いの秘密を共有し、前に進みながら国を揺るがす根源を追求する関係。


 そう、徐々にセレジアの凍った心がレイにより溶かされている。



 レイが部屋に戻る前に、セレジアに一言告げる。


「なあ、セントは騎士団の姿で、鮮血の銀髪はギルドに現れる謎の戦士、セレジアはレア家の姫ってことだよな?」

「合っているけど、改めて何?」

「だったら、俺からの提案だ!カラマタのギルドに入らないか?セレジアって名前で!俺たちと一緒に動こう!」

「えっ!?」


 急な提案に戸惑うセレジア。


 果たして、彼女の答えは。

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