第32話 カラマタの過去

 マクセルは、町のデモ隊を向いて堂々と立ち、全てを受け入れようとする雰囲気。

 その佇まいは、父親とすら感じられるもの。


「マクセル、俺はここにいたら─。」

「レイ、まず俺に聞かせろ。お前は、ここにいたいか、それとも離れたいか?」

「え?」

「お前の意思が聞きたいんだ、レイは俺の家族だと思ってる、家族の意思は尊重するものだろ?」


 マクセルのごつい体と顔から、飛び切り優しい微笑みがレイに向けられる。




 レイは数秒考えた後、


「俺は、ここにいたい。離れたくない!」

「いい返事だ、後は俺に任せろ。」


 レイの肩を優しく叩き、マクセルは前に出る。


「マクセルギルド長!ちょうどいいタイミングだ、そこの迷い人をカラマタから追放しよう!そうすれば、この町はもっと平和になれる!」

「レイを追放する?冗談ぬかせ、レイがいるからここまでカラマタは繁栄したんだろ。この町の人間なら知っているはずだ、1か月前までのカラマタならここまで多くのクエストは来なかった、それはなぜか、信頼が薄かったからだ。」

「だからって、そいつがここにいていい理由にはならないでしょ─。」

「誰に口聞いているんだ、俺はカラマタのギルド長、マクセル・シェングンだ。余所者が、余計なことをしてくれるなよ。」


 マクセルの発言に、デモ隊がざわつく。


「え、余所者?マクセルギルド長、そんな人がここに混ざっているとは─。」

「今話しているお前の事だ、お前は確かで傭兵活動をしている戦士じゃなかったか?」

「……確かに、数か月前に僕がレイと出会った時にその場にいたよね、レイの未来の為に良いことをしてやれるって。それが、これなのかい?」

「そ、それは─。」


 マクセルはデモ隊を見て、一瞬で外部の者が発破をかけていることを理解した。

 だからこそ、レイの意思を聞きその意思通りにマクセルは動いていた。


「レイはこの町に繁栄をもたらしてくれた、今回のクエストを達成したことでギルドランクをBまで上げらえた、その意味が皆にも分かるだろ?」


 この世界に、ランクAは都市アテネのみ。

 ランクBの町も、手で数える程度しか存在しない。

 100以上の町が存在している中でだ。


 マクセルの言葉をきっかけに、デモ隊もカラマタの現状を冷静に考えられるほどに、落ち着いてきた。


「確かに、レイさんが来てから町に活気が出たのも間違いない。」

「というか、迷い人って何?レイさんが迷い人なの?どういう意味?」

「私たちは、なんでレイさんを責めていたんだ?責める意味は、あったのか?」

「それは、2足歩行型モンスターの発生が頻繁になったことだと仰ってました、そうですよね、ペレの方?」

「そ、それは─。」


 皆の視線が、ペレの傭兵に集まる。


「お、俺は警告したやっただけだ!無駄に死にたくないならな!」

「そうか、なら有難く受け取っておこう。だが、それだけでレイを追放する必要が俺には分からないな。もし、二足歩行型だろうが、新種のモンスターが襲ってこようが、俺は命を懸けてこの斧で町の皆を守ろう。」

「そ、そんなこと出来るわけ─。」

「出来るさ、マクセルギルド長だけじゃない、僕も、レイ君も、多くの戦闘員がここにいる。僕らの力を甘く見ないでくれ。」

「俺の家族に手を出す奴は、どんな奴でも許しはしない。だが、俺にも慈悲はある、5つ数え終わるまでにここから失せろ、口だけの他人を陥れることしかできないチンピラ。」


 マクセルの睨みつけが、ペレの傭兵を芯から怯えさせその場から鼠のように素早く逃げ出させる。



 マクセルの説得を聞いた町の民は、


「申し訳ありませんでした、ギルド長。」

「たった1人の言葉に惑わされて、レイさんを傷つけてしまったこと。私たちは、いかなる罰も─。」

「それは、レイに聞いてみよう。」

「俺、が?」


 レイはマクセルに手招きされ、近くに寄る。


「レイ、お前はこの町にいることを望んでくれたが、俺達が傷つけたのは事実だ。お前の意思で、ここから出ていくことも、デモ隊に罰を与えることも俺は否定しない。さあ、お前の意思をもう1度教えてくれ。」

「俺の、意思……。」


 レイはもう一度考える。


 カラマタで過ごした日々を、自分を変えてくれたマクセルやオウロ、いつも美味しいものを食べさせてくれる補助員や、声をかけてくれる町の人の姿を。

 この町で、温かさというものを教わったことを。



 そして、たどり着いた結論は、


「俺は、この町で今まで通りに過ごしていいなら、他に何もいらない。人って、失敗して成長する生き物だって、誰かから聞いた気がする。だから、今回の事は無かったことにしてほしい、マクセル、お願いできるか?」

「ああ、ギルド長マクセル、レイの意思を尊重しよう。皆、これがレイの意思だ!これからもカラマタを盛り上げるために、力を貸してくれ!」

「おぅ!」

「わかりました!」


 今回の1件で、さらにカラマタの絆が強固なものになった気がした。




 デモ隊は解散し、レイとオウロはクエスト達成を報告する。


「こちらが今回の報酬です、お疲れ様でした!」

「ありがとうございます。はい、レイ君。」


 オウロから銀貨10枚を受け取る。


「ありがとう、まだ俺はここにいれるんだな。カラマタっていう楽しい空間に。」

「ああ、僕たちも君にはいなくなってほしくない、これからもよろしく頼むよ。」

「ああ、こちらこそ。」



 レイとオウロがギルドを出ようと出口に向かうと、


「おーい!レイ、少しいいか?」

「マクセル?筋トレのお誘いか?」

「それもとっても魅力的な提案だ!ただ、その前にレイに教えておきたいことがあるんだ!」

「教えときたいこと?分かった。オウロ、また明日。」

「ああ、ごゆっくり!」


 レイはマクセルに呼ばれ、ギルドの事務室に向かう。


 そこには、多くの和紙のような茶色い紙で書かれた資料と地図を確認する。


「なんだ、これは?……歴史書?」

「そうだ、カラマタについてのな。レイはこの町を気に入ってくれているみたいだからな、少し過去を知っておいてもらった方が良いと思ってな。」

「カラマタの過去か、とても興味があるな!最初の資料は……10年前か?モンスター襲撃により、壊滅状態!?」

「そうだ、それがカラマタに残る最古の歴史書だ。それよりも前のものもあったはずだが、町が壊滅した時に無くなってしまった。だから、10年前から今までの歴史を少し知ってもらいたい。」

「分かった、是非見させてくれ。」


 歴史書の1つ目を読み始めたレイ。


 そこには、悲惨な状況にあったカラマタを救った英雄がいると書かれていた。



 その名前は、


 アテネ騎士団所属、副団長、マクセル・シェングン。

 10人部隊で、カラマタの戦地に乗り込む。


 と書かれていた。


 カラマタの過去と、マクセルについて知ることが出来そうだ。


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