第169話 オウロとは

 アンジェとオウロの間には緊迫した空気が流れていた。


「いや、待ってくれ!なぜ僕がアンジェくんを倒さなくちゃいけないんだい?そもそも、支援課ダーヴに入れてもらった時も、これまでも、僕は君たちの味方で─。」

「だったらなぜ、うちらに警戒心を、いえ、殺気を飛ばすことがあるのですか。」

「殺気!?そんなもの、君たちに飛ばすわけがない!アンジェくんは何か勘違いをしているよ!」

「いいえ、オウロさんはとあるタイミングでほんの僅かにうちらを危険視する動きと、排除しようとタイミングを測ることを繰り返していました。」


 アンジェはオウロとは全く違う、何にも動じない姿勢で話し続けた。

 その顔は、真剣そのもの。


「1つ目は、兄さんが記憶と感情を取り戻すタイミングです。ただでさえ強い兄さんですが、記憶と感情を取り戻すタイミングで、着実に本当の力を取り戻している。それは、本来とても嬉しいことのはずです、仲間としては。」

「その通りだ、僕だってリンくんが何度も記憶を取り戻す場面に立ち会ってきた、初めて会った時から比べたら比べ物にならないほどに強くなっている。」

「それがオウロさんにとって、全て都合が良いことにつながるわけではない。何故なら、うちらと戦わなくちゃいけない時が来る場合、脅威になるから。。」

「なぜ僕がみんなと戦わなくちゃいけないんだ!僕にそんなことする理由も、利点もない─。」

「身喰らう旅団……いえ、古代騎士の仲間にも同じことを言えます─。」

「っ!!」


 アンジェはその目にオウロを捉えていたが、コンマ数秒後には映る景色が青空に変わっていた。


 瞬間的に近づいたオウロが、アンジェを地面に転ばせその上から拳を振り降ろそうとしていた。


「アンジェくん、碌なことをいうものじゃないよ、僕はみんなと共に生きている、オルデン・アトラスだ。それ以外の何者でもない─。」

「では、兄さんが本当に全ての記憶と感情が戻っても良いというのですね。全てを取り戻した兄さんを倒すのは、相当大変だと思いますが。」

「……ああ、問題ない。」

「嘘がお下手ですね、オウロさん。最後のチャンスです、うちを排除するチャンスは今しかありませんよ。うちは、何も抵抗しませんから。」

「っ!?」


 アンジェに向け拳を向けているオウロの手に、少しずつ力が溜まっていくのが分かる。


(今なら、支援課ダーヴの戦力を削れる。それが、後の僕の道に光を差し込む、のか?)

「冷静に考えてみてください、リン兄さんとオウロさんが戦うことになったら、うちとセラさん、場所によってはレムさんやマクセルさん達も出てくるかもしれません。それだけの数を、あなただけで倒すのは不可能に等しい。」

「……なぜ、抵抗しない。君は僕が何者なのか理解してるのかい?」

「いいえ、うちが知っているのは、傭兵だった頃に聞いた話で、昔イリオスには古代騎士団というものが存在し、そこで1番力を持っていたのは、アトラス家だったということだけです。」


 アンジェは先ほどの宣言通り、オウロに対して全く抵抗を見せない。


「もしかしたら、うちよりセラさんの方が詳しいかもしれませんよね。オウロさん、あなたの目的が何なのか、なぜうちらを危険視しているのか、うちは聞きません。」

「なぜだい?」

「あなたは、何かを隠しているその先に、苦しみを抱えているから。本心でうちらを排除したいわけではない、それは理解してます。これは、うちの賭けです。オルデン・アトラスという人を信じるという。」

「……もし、その賭けに負けてここで命を落とすことに後悔はないのか。」

「ありますよ、まだうちはもっと兄さんと共にいたいですし、楽しい記憶を作りたいです。いろんなことを一緒にしたいです。ただ、兄さんはうちの今回の賭けを信じてくれた、なので良い結果が残せたら嬉しいです。」


 オウロはその手に込めていた力を徐々に解いていき、アンジェの上から退いていく。


「良いんですね、オウロさん。」


 アンジェはその場に座り、オウロを見つめる。


「僕は……僕は君を傷つける理由を見つけられない、この先本当に君たちと戦うことになる可能性は残ってるし、その覚悟もある。ただ、今は、アンジェくんと鉱石を取りに行く仕事の最中だ、支援課ダーヴのオウロとして協力させて欲しい。」

「分かりました、では今度こそうちの背中を任せますね。もちろん、今回の一連の出来事を誰にも話すつもりはありません。だから、もしオウロさんが誰かに相談したくなったら、迷わずうちのところに来てください。きっと、力になれますから。」

「……頭に刻んでおくよ、心も体も強い、アンジェくん。」

「はい!それでは、目的の鉱山まで行ってサクッと手に入れましょうか!」


 オウロが裏切るかと思われたが、アンジェとの駆け引きの中で、これまで通り仲間として共に活動すると判断したオウロ。


 古代騎士団、オウロの戦う意味、そして彼は何を望んで初めてペトラの村で1人だったリンに声をかけたのか。


 彼が抱えている秘密が明かされるのは、まだ先になるのであった。


 それでも、リンによってセラが良い変化をしているように、オウロの心も、体も、アンジェをきっかけに変わる時がいつかくるのかもしれない。

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