第91話 おはよう

 その後も、リンのプレッシャーに押された大男が身喰らう旅団のことについて知っていることを話した。


 今は、ラミアという奴隷売買をしている町を拠点としており、数ヶ月単位で拠点を変える。


 ほとんどのメンバーが傭兵で構成され、良い報酬を渡す代わりに失敗は死に繋がることを表明している。


 実際に、リンとオウロを襲った黒服4人は大男の前で処刑された。


 ただ、大男は自分の持つチームが身喰らう旅団に所属している為、メンバーは旅団の団員に会ったことはない。


 その為、アンジェは身喰らう旅団の団員を誰1人知らない。



 しかし、目をつけられたアンジェはチームのリーダーである大男が消さなければ、自分の命がなかった為今回の行動を起こした。




 情報を手にしたリン、セラはオウロ達に共有し、次の作戦を立てその日は眠りについた。




 翌日、リンは身支度を整え、皆のところに向かう前にアンジェの部屋に入った。


 呼吸を一定にして、すやすやと眠っている姿を見つめるリン。


「アンジェ、大変な場所で生きてきたんだな。もっと早くに、俺がアンジェのことを思い出せてたら、こんな事にはならなかったのにな。ごめん、アンジェ─。」

「……に、さん。」

「っ!?アンジェ!」


 包帯で全身包まれているアンジェが、左眼をゆっくりと開いた。

 その眼には、リンの姿がしっかりと映っていた。


「兄、さん。」

「アンジェ、気が付いたか!」

「はい、おはよう、兄さん。」


 アンジェはゆっくりと手をリンに伸ばす。

 その手を取り、リンは両手で包む。


「温かい、です。兄さんの、手。」

「アンジェもだ、すまない、俺のせいでこんな大怪我を─。」

「違い、ますよ。うちは、兄さんを、守りたかった。これは、うちの、意思です、から。」

「それでも、俺は。」


 もう片方の手が、リンの頬に触れる。


「ああ、優しい、うちの知る兄さん、ですね。何を、言っても、兄さんは自分を、責めてしまう。でも、うちは、言い続けます、兄さんを覆う、その責任から、って。」

「アンジェ……ありがとう、アンジェと話せて、顔が見れて、とても温かい気持ちになれた。アンジェ、聞いて欲しい、俺たちはこれからラミアに向かう。俺の信頼できる2人が、アンジェのことを看病してくれる。」

「兄さんの信頼、できる人なら、安心、です。うちのいた、旅団について、調べるんですよね。」

「そうだ、それまで帰りを待っていて欲しい。そして、帰ってきたら。」


 アンジェはリンが次何を話すか分かっていたかのように、


「はい、うちを、兄さんの元で、ギルドで、活動させてください。」

「まさか、昨日の話聞こえてたのか?」

「少し、だけ。うちはもう、大切な兄さんと、離れたくない。この世界で、唯一の、家族ですから。うちのわがまま、聞いてもらえ、ますか?」

「当たり前だ。少し出かけてくるから、それまでゆっくりしててくれ。大切な妹、アンジェ。」

「分かりました、行ってらっしゃい、うちの大切なリン兄さん。」


 リンはアンジェの手を元に戻し、部屋を後にした。




「おっ、来たね。」

「アンジェは平気だった?」

「ああ、話せるとは思えなかったけど何とか生き抜いてくれた。レム、カグヤ、シオンの村とアンジェを任せる。」

「任せておきな、マクセル兄さん達も手伝ってくれるってことだから、3人は。」

「あたし達に出来ないことをお願いしますね!リンさん、レア様、オウロさん!」


 レムは、リン以外の人間がいる場合、セラのことを苗字のレアと呼ぶ事にしていた。

 そうする事で、レムは最後の切り札として周りに姿をバレないという考えで、リンとセラが判断した。



 昨晩5人で立てた作戦。



 ラミアの調査と、身喰らう旅団の調査。


 ラミアでは奴隷売買が行われており、その実態を調査し王都アテネに報告して被害者を減らすのが一つ。


 そして、もう一つは身喰らう旅団は何を目的とし、人を集めているのかを調べ、リン達を襲った原因も掴む。


 そうする事で、セラの管轄であるアテネの評価と、リン達の命の安全、さらにシオンを守る事になると判断した。


 初めて、リン、セラ、オウロの3人での作戦になった。


「改めて、リン、オウロ、よろしくお願いね。」

「はい、セレジア様と共に行動できる事、光栄に存じます。」

「そんなに畏まる事なのか?セラも俺たちと同じ人だろ?」

「リン君は特例だと思った方がいいよ、セレジア様をあだ名で呼べる人僕は初めて見たくらいだ。」

「暗い旅は私も好きではないから、オウロも気にしすぎないでいいわ。まあ、リンは少し気を遣ってくれてもいいけど。」

「セラのことを総合的に判断して、今の俺じゃ無理だと思うから、普段通りにいかせてもらうな。それじゃあ、行こうぜ、ラミアへ。」



 リンは先頭を進み、セラはため息をついてからリンの後を続き、不安そうな表情を浮かべてオウロは1番後ろを歩く。


 始めての3人での作戦、そして奴隷売買をしているラミアとそこで活動している身喰らう旅団、はたして彼らを待ち受けるのはどんな壁か。

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