後編②

 お店を開けている間は気が張っていたせいかそれ程では無かったのだが、家路に向かう途中で歩くのもままならないくらいに頭痛が酷くなり、コンビニで買ったお弁当を無理無理飲み込んで、お風呂にも入らず寝込んでしまった。


 その日見た夢はどれも最悪だったけど……一番最後の夢は……


 私が『小夏ちゃん』で、どす黒い顔色で能面みたいな表情のから迫られて逃げまどい、ベッドの上から転げ落ちても尚、カレシに部屋の隅まで追い詰められて


「コウキくん! 助けて!!」


 と叫んだところで目が覚めた。



 途端に激しい頭痛がして、体は汗だくなのに寒さで震えが止まらず動く事が出来ない。


 やっとの思いでベッドサイドのスマホを取り、『コウキくん』へ“個チャ”する。


『今日、風邪で臨時休業 申し訳ないけど学校へ行く前に店に張り紙して バイト代はフルで出すから』


『その位の用事ではバイト代貰えない。住所と欲しい物、教えて』と返信が来て

 コウキくんは学校帰りにウチに寄ってくれた。


 でもその時の私の体調は最悪で……スマホから『今、出るから待ってて』とメッセし、ベッドからドアに辿り着くまでのほんの数歩の距離に恐ろしく時間を要した。


 やっとの思いで鍵を開けるとコウキくんが飛び込んで来て、よろけた私を抱きかかえてくれたのに……

 その胸に思いっ切り“戻して”しまった。


「とにかく!!」と

 コウキくんは“買い物”を振り出して空にしたレジ袋を私に握らせた。


「店長! とにかく吐けるだけ吐いて」


 私が涙目でオエオエやってる最中にコウキくんはネクタイを外し、ワイシャツとTシャツを脱いでしまって、脱いだTシャツで床を拭いている。


「雑巾とか適当に借りますね」


 どうやら、トイレや洗面所を行ったり来たりしている様だ。


 あぁ!! 十九の時、の様に実家を飛び出してから今まで……こんな事は一度も無かったのに!!


 吐き尽くしたレジ袋を情けなく抱えた私は、目の前で跪いているコウキくんに「ごめんなさい」としか言えなかった。


「店長! 目を閉じて少し顔を上げて下さい」

 しょんぼりとした気持ちで言われた通りにすると、コウキくんはすっぴんドロドロの顔を“ホットタオル”で、そっと拭いてくれた。


 そんな事をされると、私の中の“小さな女の子”が泣いてしまう!!


「着替えの……やパジャマの場所さえ教えていただければ、清拭用のお湯やタオルと一緒にお持ちします。あと、漂白剤を見つけましたから消毒用でお借りしますね。今着てらっしゃるのも白だから、色落ちは大丈夫ですよね」




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