呼び方


 先生はわたしの体を引き離す。何だか顔が赤いようだけど大丈夫かな?


「……竹原、」


「はい、先生」


「その“先生”というやつ、ふたりきりの時はやめないか? 外で話をしていて少しヒヤリとした」


「あー、そういえばそうですね、」


 え? でも、先生を“先生”以外に何て呼べばいいの? だって先生は先生で先生なのだから……。


「俺の名前、知っているか?」


「勿論です、保住ほずみ 明孝あきたか先生です」


「下の名前で、先生をなしで言ってみろ」


「えっと……あ、あきたかさん?」


 うっ!! 先生の名前を呼ぶだなんてなんて畏れ多いっ! で、でも特別な感じがして嬉しいなぁ。……うん? そういえば統瑠とうるくんも先生のことを“明孝さん”と呼んでた気がしたけど──あれはノーカウントで!!


「うん、いいな。そうやってお前に名前を呼ばれるのは」


 先生がにこっと笑うのでもっと呼んで喜ばせてあげたくなる。


「あきたかさん」


 すると……。


「何だ、


「ぐはっ!!!!」


 完全に不意をつかれ、胸を押さえて体を前に倒す。せ、先生が、先生がわたしの名前、それも愛称で呼んでくれたっ!!!!


「わ、わが生涯に一片の悔いなし、です……ふふ、ふふふ」


「よくそんな言葉を知っていたな。だがそれは死ぬ時に言った台詞だ、縁起でもない」


「死ぬ位の衝撃なんですっ!!」


 するとはニヤリと意地悪そうに笑うと、人差し指をわたしの唇に添える。


「キスで死ななかったのだから大丈夫だろう」


 カーッと体が熱くなる。そう、キスをした。わたしはあきたかさんとキスをした。だけど、死んでもいないしそれどころか……。


「あきたかさん、もう一度キスしたいです」


 わたしはそんな図々しいお願いを口にしていた。


「ああ、いいぞ。もう一度と言わず何度でもしよう。俺もお前と……しずとキスをしたい」


 ああ、こんなに幸せでいいのかなぁ。

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