彼スウェット
オートロックマンションを物珍しそうにする竹原を部屋へと案内する。
彼女はリビングに入るともじもじとドアの前に突っ立っていた。
「コーヒーを淹れるからソファに座っていてくれ」
「お、お手伝いします!」
「ははっ、コーヒーくらい俺でも淹れられるさ。座っていろ」
すると竹原は無言のままそそそっと歩いてソファの端にちょこんと座った。俺の部屋に竹原がいる、それはとてつもない違和感なのだが同時にしっくりとくる気もした。
夕食を済ませた後、DVDを見ながらゆったりとした時間を過ごしていたら竹原がふわぁと欠伸をした。
「先に風呂に入るといい。こっちだ」
彼女のことだから自分は後でいいと言い出すだろうからその前に風呂場へと案内する。そこでふと気がつく。
「着替えが、ないな」
「大丈夫ですよ、今着ている服をまた着るので」
平然と言う彼女だが、そういうわけにもいかないだろう。少し考えて、思い出す。
「待っていろ、直ぐに戻ってくる」
そう彼女に言い残して寝室に入る。部屋の隅に置かれた段ボールの中からスウェットの上下を取り出して戻ってくる。
「通販で買ったんだがサイズを間違っていたようでな、一度袖を通したものだが……どうだ? 無理強いはしない」
たったの一度でもおっさんが着た服など嫌だろうなと思いつつ差し出すと、竹原は礼の言葉を言いつつ受け取ってくれた。
安堵してリビングに戻りDVDの続きを見る。だが竹原が風呂に入っていると考えるとどうしても映画に集中出来なかった。
「お先にお風呂を頂きました。先生もどうぞ」
しばらくして竹原がリビングに戻ってきたのだが、その姿は丈の短いワンピースという風体だった。首回りはゆったりとしていて袖口からは指先しか出ていない。
「……ズボンも渡したと思うが?」
「ずり下がってきて何度も裾を踏むんです。……すみません、醜い足を晒してしまって、」
醜いだなんてとんでもない、すらりと伸びた健康的で白い足にはどうしても目が奪われてしまう。それに、竹原の膝を見たのはこれが初めてかもしれない。彼女はいつも膝下丈のスカートを身に付けている。
「……俺も風呂に入ってくる、先に寝ていてくれていいぞ」
とりあえず、風呂に入って思考をリセットしよう。
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