電話


 ビジネスホテルは全て満室だった。そうしている内に辺りは暗くなり、コンビニの駐車場で頭を抱えていると助手席に座る竹原が言う。


「わたし本当にネカフェで大丈夫ですよ?」


 竹原は賢そうで時々驚く程抜けている。


「……ネットカフェで女性が性被害にあう事件がままあるんだぞ」


 そう言うと竹原はハッとした顔をしてから俯いた。

 ……しかしこうなれば残る手立てはひとつしかない。これはあまり推奨されるものではないが、ネットカフェよりは安全だと思う。


「竹原、俺の家に泊まるか?」


 竹原を家に招く予定は当分なかった。それこそ彼女が卒業してからだと思っていたのだが、この度ばかりは仕方ない。

 竹原は弾かれたように顔を上げると頬を赤く染め、キラキラとした瞳で俺を見上げる。


「はい! 是非伺いたいです!」


 とても喜んでいることは見て直ぐに分かった。

 分かりやすく俺のことを大好きだとアピールしてくれるのは本当にありがたい。俺が鈍感だっただけで、付き合う前の彼女も実はこうだったのだろうか? もしそうなら惜しいことをした。


「先生のお家、先生のお家……えへへ」


 竹原は大切そうに繰り返して笑っている。ならば俺はこの笑顔を曇らせるわけにはいかない。だから言った。


「お前が我が家に泊まることを俺の口から直接保護者へと連絡したいのだが、電話を繋いでもらえるか?」


「保護者って、母ですか? それならわたしから言っておきますからお気になさらずに」


 違う、そうじゃない。


「俺と竹原は真剣に交際している。となれば竹原の母親は将来俺の義母になるかもしれない、ちゃんと筋を通しておきたいんだ」


 すると竹原は更に赤くなってあわあわと慌てながらスマホを操作し始めた。



 竹原の母親にまず彼女を家に帰せなかったことを謝罪し、次に我が家に泊まらせる許可を貰った。そして最後にこう締め括る。


「娘さんとは節度をきちんと守って交際するのでご安心ください」


 有り体に言えば“手はださないSEXしない”ということだ。彼女はまだ学生の身なので当然のことなのだが……。


「もっと先生と一緒にいたいなっていうのが叶っちゃいました」


 愛しい彼女にかわいらしく言われたら理性が揺らいでしまうじゃないか。

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