デート当日


 デート当日。田舎な地元から賑やかな街の方へと電車でやって来る。

 駅前の乗降所でキョロキョロとしていると、車に乗った先生が運転席から身を乗り出して声をかけてくれた。

 緊張で震える手で助手席のドアを開けて中に入ると、そこには至福の光景が広がっていた。そう、先生の私服である。

 大学での先生はいつもワイシャツにネクタイ、そしてスラックスなのだが今日は違う。ネイビーのジャケットに黒のTシャツ、カーキのチノパンと初めて見る服装だ。


「はわわ、いつもかっこいい先生が今日ははちゃめちゃにかっこいいです」


「そうか? ありがとう。竹原もいつにも増してかわいいな。髪を少し切ったのか? スカートの色も鮮やかでよく似合っている」


 確かに今日のわたしはいつもの500億倍位かわいいと自分でも思っている。今日の為に髪もカットしたし、オレンジ色のスカートも買った。それに全部気がついてくれた上にかわいいとまで言ってくれるだなんて……本当に先生好きっ!!



 車が動きはじめ、わたしの人生初のデートが始まる。

 車内で先生との会話が途切れたらどうしようかと悶々としていたが、話題は尽きることなく海まで楽しい道中を過ごすことが出来た。

 それはそうだ、わたしは大学に入ってからほぼ毎日先生と話をしているのにもっともっと先生と一緒にお喋りをしたいと常日頃から思っていたのだから。



 秋の海岸は物静かで人気ひとけも殆どなくわたしと先生は肩を並べてゆっくりと歩く。高い青空、キラキラと輝く海、そして隣には大好きな先生──素敵なものが沢山溢れていて胸が踊る。


「竹原、写真を撮っていいか?」


 先生は首に下げた大きなカメラをわたしに向ける。どうしよう、写真を撮られるのは苦手なんだけど……。


「駄目だろうか?」


 朗らかで優しい笑顔で問われたら、わたしはドキンとして笑顔を返すしかないじゃないか。



 海岸を散策した後、おしゃれなカフェで昼食をとることになった。どうやら先生が予約をしてくれていたようで海の見えるテラス席に案内される。

 食事が運ばれてくるのを先生と談笑しながら待っていると、ふと他のお客さんの目が気になった。

 わたしたちのことを見てヒソヒソと話す人がちらほらとおり、まぁ何を言っているかは予想出来る。わたしと先生の関係のこと、良くて“親子”と悪くて“パパ活”という所か。

 でも、他人なんて関係ない。わたしと先生が本当のことを知っていればそれでいいの。

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