普通でない関係
“恋人同士”という言葉に舞い上がっていたら、先生はフッと深刻そうな顔をする。
「だが俺たちの関係はとてもじゃないが普通だとは言いがたい。それは分かるな?」
わたしもそれは十分に理解しているのでコクンと素直に頷くと、先生は優しさと悲しさを混ぜ合わせたような顔で笑う。
「竹原、ドライブデートをしよう。少しの遠くの海へお前を連れて行きたい。……若いお前には退屈かもしれないがな」
わたしたちが街中の商業施設やデートスポットで一緒に歩くのはきっと難しい。もし大学の学生や関係者に見られてしまったら、あらぬ噂が立って先生にご迷惑をかけてしまうかもしれない。そんなのは絶対に嫌だ。
でも先生はそんなリスクを冒してまでわたしなんかにデートを楽しませてくれようとしている。そんなの、嬉しく思わないはずがないけど……。
「大好きな先生と一緒にいて退屈だなんてありえないです。海だってどこだって、先生が一緒ならわたしはとても幸せです」
冷却剤を持つ先生の手にソッと自分の手を添える。
「だから、この研究室デートでわたしは大満足ですよ。海もそりゃあ素敵ですけど、無理をして外でデートをしなくてもわたしは大丈夫です。外のデートはわたしが卒業してからでいいです」
にこにこと笑いながら嘘をつく。本当は先生とでかけたいくせに、先生の迷惑になって嫌われるのが怖い。嘘をついてでも“いい子”でいたらきっとこれから先も先生と一緒にいられる。
そう、思ったのに……。
「竹原、何か勘違いしていないか?」
先生は首を傾げてわたしを見るのでつられてわたしも首を傾げる。
「お前は、俺がお前の為にデートを提案したと思っているのかもしれないがそれは違うぞ」
「……え? そうなんですか?」
「ああ。他でもない俺自身が大学以外でも竹原と過ごしたいと思っているんだ。……お前にはそれが迷惑だろうか?」
先生の言葉を理解するのに数秒を要した。そして先生もわたしとデートをしたいと思ってくれていることに気がつくと、胸の奥から喜びが溢れ出してきて顔がカーと熱くなる。
「め、迷惑なはず、ありません!! とっても嬉しいです! 嬉しい、本当に嬉しいです」
嬉し過ぎて鼻の奥がツンとして瞼が熱くなる。ああ、わたし……こんなに幸せでいいのかな? ──と、この時はまだあんな事態になるとは思わず浮かれまくっていたわたしであった。
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