お泊まりデートは計画的に

デートのお誘い


 いつも通り大好きな先生の研究室で寛いでいる時だった。


竹原たけはら、今度の土曜にでかけないか?」


 先生は唐突にそう言った。

 ホットオレンジジュースが注がれたマグカップを持ってキョトンとするわたしに、先生は苦笑混じりに続ける。


「まぁなんだ、“デート”というやつだな」


 デート、つまりそれは親しい男女がふたりでおでかけするってあれよね??

 …………え? わたしが先生とおでかけ?? なにそのご褒美は。わたし、前世でどれだけ徳を積んだの??

 これは……もしかして夢かもしれない。急いで確かめないとっ!!


「えいっ!」


 かけ声と共にバシンと大きな音を響かせて自分の右頬を叩く。すると頬は直ぐに熱を帯びてジンジンと痛みだす。


「痛い、夢じゃない!」


「“夢じゃない!” じゃない!! 何をやっとるんだ、お前は!!」


「げ、現実かどうかを確かめただけですけど??」


「そんなことで躊躇なく、それも本気で自分の頬を叩くやつがあるか! ……待っていろ」


 先生はため息をつきながら部屋の隅にある給湯スペースへ行くと、冷蔵庫から冷却剤を取り出して戻って来て──。


「つめひゃい!」


「我慢しろ」


 キンキンに冷えたそれをわたしの頬に押し当てた。


「竹原。お前は他者のことは思いやれるのに、自分のことは大切にしないきらいがあるな」


「そう、ですかね?」


 そんなことを言われてもいまいちピンとこないけど──


「自分自身をもっと労ってくれ。そうしてくれたら俺は嬉しい」


「はい、分かりました!」


 先生が嬉しいのならわたしはわたし自身を大切にしようと思う。


「……それと、俺がお前をデートに誘うことを夢だと疑うのはやめてくれ。恋人同士なら普通だろう」


 恋人同士、その甘いフレーズにわたしはデレデレと照れながら笑うことしか出来なかった。

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