かわいい
竹原はコバルトブルーのスカートをギュッと握る。
「わたしは、先生のこと入学式の日に一目惚れしてからずっと好きでした。でも、わたしが好きになるのはいつも既婚者で、好きになってはいけない人です」
入学式、そんな時から俺を好きでいてくれただなんて初めて知った。嬉しいのだが……竹原が俺以外の男を好きでいた時期もあるのだと知って少し面白くない。
「だから先生のこともどうせ叶わない恋なんだって思って最初から諦めてました。叶わない恋なら、いい生徒でいようって思ってたんです」
偽の結婚指輪などつけて、俺は長い間彼女のことを傷つけていたのだと思うと過去に戻りたくなる。
「でも、今はこうして実際に先生とお付き合いをしています。ずっとずっと諦めながらも嫌いになれなかった憧れの先生の彼女になれて……わたし、戸惑ってます」
「……何に戸惑っているんだ? 俺が何か竹原を不安にさせているだろうか?」
流れていない涙を拭うように彼女の頬に触れると、柔らかなそこは熱を帯びていた。
「先生は優しくて、かっこよくて、素敵で、優しくわたしをリードしてくれます。……でも、わたしは上手にそれに応えられないんです。だから申し訳なくって、先生のことが好きなのに苦しくなるんです。でもこのままじゃ駄目だってのも分かってます、呆れられちゃう、」
まさに先輩が言っていた“好き過ぎて逆に無理!”というやつか。……ああでも、どんなに我慢しても顔がにやけてしまうな。
「……や、やっぱりわたしの言うこと、馬鹿みたいですかね?」
「お前を馬鹿にして笑っているわけではない。……その、竹原にとっては侮辱的な言い方なのかもしれないが、かわいいと思って、」
悩み、苦しんでいる相手に“かわいい”などと言うものではないが、つい口に出してしまう。
「竹原が俺のことを好きで、俺とのことを必死に考えてくれて、それを俺に伝えてくれた。そしてどうにかしたいと考えてくれていると知ったら……かわいくてかわいくて、愛おしさが胸の奥から溢れてくるんだ」
今、彼女にとてもキスをしたい。だけどそれは少し我慢する。
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