原因


 先輩はコロコロと机の上を転がっていく箸を目で追っていたが、やがて俺のことを真っ直ぐに見据える。


「……その反応はマジか。マジで相手はJDなのか。教え子に手を出したのか」


 色々とよからぬ誤解を与えているようなので俺は講義の時のようなゆっくりとした口調で先輩に語っていく。


「先輩、俺の話を聞いて下さい」


「うん、聞く」


「まず、女子大生を“JD”というのは何か気持ち悪いです」


「うるせーよ! 今そこ関係なくない?!」


 確かに関係ないのだが、なんとなく訂正したかったのでしただけだ。コホンと咳払いをして話を本筋に戻す。


「確かに相手はうちの大学の教え子です。……ですが浮わついた気持ちで交際しているのではなく、俺なりに悩み考え抜いた結果彼女と交際に至りました。俺も彼女も思いは通じ合っており誠実な気持ちで交際をしています、分かってもらえますか?」


「分かるよ、だってお前真面目だもん。それに、おれだって驚いただけで別に反対してるわけじゃないぜ。おれ、お前なら大丈夫だって信頼してるからな」


 “信頼”という言葉に心があたたかくなる。恩があり、尊敬している先輩にそう言ってもらえるのは大層嬉しいものだ。


「それで、えーとキス、だっけ?」


「俺ももうは落ち着いていますし、相手との体の触れ合いは彼女が卒業してからだと決めてあります。だけど、ほんの少し……軽いキス程度ならと考えていたんですが、」


「カノジョちゃん、させてくれねーんだ。おれ、こーいう恋愛相談的なやつは向いてないんだよなー。ずっと嫁一筋だったし!」


「……原因は、分かっているんです」


「あ、そーなん。それならそれを解決するだけじゃん。原因って?」


 俺は一呼吸置いてから深刻なその原因を告げる。



 すると先輩は……。


「ぶっ飛ばすぞ」


 冷たい表情でそう言った。な、何故だ?! 本当のことを言っただけなのに!

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