逆に

 細目でじっと睨みつけてくる先輩を負けじと見つめ返す。きっと目を逸らしたら負けなのだと思う。

 やがて先輩は深いため息をつくとやれやれといった感じで額を押さえる。


「すまん。イキってたヤンキー時代のお前ですら言わなかったパワーワードが飛び出して混乱した」


「唐突に昔の話をするのはやめて下さい」


 先輩に出会う前、荒れていた頃の自分を思い出すのは羞恥で死にそうになる。……そして“羞恥”といえば、竹原だ。


「何度かキスをする機会に恵まれたのですが……あと少しで唇が触れ合うというところで、いつも彼女が“ぐっ! かっこよ過ぎるっ!!”と真っ赤な顔で絶叫しながら胸を押さえて膝から崩れ落ちるんです」


「ごめん、なんか面白そうなカノジョちゃんだなって思っちまったわ」


 ちなみに竹原との初めてキスは先輩の愛しい息子に邪魔されたのだが、今はまぁ黙っておこう。


「どうにも彼女は今まで男女交際というものを一度もしたことがないらしく、反応がとてもピュアというか初というか……。普通なら俺の方が色々と自信をなくすだろうに、彼女の方がこの交際のことを“夢なら覚めないでほしい”などと言うもので。──正直、こんなおっさんに対してそこまで羞恥を覚えたり自信をなくしたりしなくともよいのではと思うのです」


 頬を染めて恥じらいをみせる竹原も勿論かわいらしい。初な反応にキュンともする。……だが照れのせいでその先になかなか進めないのは、いくら急かしていないからといって段々と不安は募っていく。

 先輩は腕組をして“う~ん”と低く唸後に言う。


「なんていうか……“好き過ぎて逆に無理!”てことなんか??」


 そう言われて、ハッとする。

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