図星


 呆然として言葉を失っていた先輩だったがどうにか自力で我に返ってくれたようだ。


「キスって……え? チューのことだよな?」


「そうです。他にも口づけ、接吻、口吸い、フランス語ではベーゼともいいます」


「いや、そんな色んな言い方を教えてくれなくても大丈夫だから。……え? というか恋人出来たの?! 聞いてないけど????」


 バシンと机を叩いて立ち上がり声を張り上げる先輩に周りは奇異の目を向けてヒソヒソと言葉を交わす。


「先輩、落ち着いて。座って下さい。今言ったのだから聞いてないのは当然でしょう」


「そっか、そうだよな。……お袋さんが亡くなってから恋人の話とか全然聞いてなかったから驚いてしまってな。そうかそうか」


 先輩は椅子に座り直すと感慨深そうに頷く。それから彼はニッといたずらっぽく笑う。


「先輩たるこのおれにはいずれちゃんと紹介してくれるんだろう? それが後輩たるお前の役目だもんな! それで? どういう人なんだ?」


 “後輩”というものにそんな役目があるとはとても思えないが、今はそれに突っ込んではいられない。

 “どういう人なんだ?”という問いかけに対して嘘偽りなく正直に答えると、先輩は俺のことをどう思うのだろうか? もしかして幻滅されるかもしれない。……だが先輩に幻滅されたとしても、俺は彼女──竹原のことを本当に愛している。


「あ! 分かった、もしかして大学の教え子に手を出しちゃったとか?? なーんちゃって★お前に限ってそれはないか~」


 先輩の一際明るい声に持っていた箸を思わず落としてしまった。

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