第36話 ビースト国へ出発!



 ビースト国へ行くためには馬車が必要だ。総勢四人のパーティーになったし、四人ぶんの荷物や移動中の食料とかも運ばないといけないし。


「ビースト国っていっても、都まで行かなくていいよな。てことは、まず手始めにフィフィの森んなかにあるオランジュに行こうか。あそこなら、マンエンディからほんの三刻ほどだ。な? 兄貴」

「オランジュか。通称、森の賢者の街。これまでにも何度か行ったことがあるけど、楽しいところだったなぁ。都とは違う神秘がある」


 そう。森の賢者。魔法使いの多い街だ。兄貴の好きな場所でもある。今からウキウキしてるのが見てとれる。


 それでなくても世間知らずで経済観念破壊されてるのに、こんな浮かれちゃって大丈夫なんだろうか? 心配だ。


「いっとくけど、兄貴。勝手に買い物すんなよ? あんたは多額の借金かかえてるって自覚しとけ? 今後、買い物はすべて、あたしの許可を得てからにすること。いいな?」

「ええっ……アニス。厳しい」

「兄貴が自分に甘すぎるだけだ」


 そんな話をしてるところにリゲルとシガルタが戻ってくる。シガルタは革の胸あてと革の帽子、頑丈なブーツを新調してる。矢筒も新しくして、矢数を増やしていた。見るからに弓使いらしいいでたちだ。


 あたしがシーフで兄貴が魔法使い。リゲルは僧侶。シガルタが弓使い。かなりいいバランスのパーティーになったな。前線で戦うのがあたしだけだけど、そこはなんとかなる。


「うわー! カ、カレンデュラさんですね! は、初めまして。リゲルといいます。アニスさんのパーティーの仲間です。まさかギルドきっての大魔術師にお会いできるなんて!」


 リゲルは感動してるが、シガルタはキョトンだ。アラーラ村から出たことなかったんだからしかたない。兄貴は現存するマン族の魔法使いのなかでは一番の腕前なんだが、ギルド会員でなきゃ、名前も知らないだろう。


「このかたはアニスさんのお姉さまですか?」


 なんて、いってくれる。


「だよな。女に見えるよな。これでも兄貴なんだ」

「えっ? どこから見ても絶世の美女ですよ?」

「そう見えるよなぁ……」


 長い黒髪。あわいブルーグリーンの瞳……ふっ。あたしと違いすぎる。

 ともかく、兄貴の魔法だけはスゴイ切り札だ。ヤツの生まれもった生来魔法ってのが、とんでもないからな。今まで以上に稼ぐぞ!


 てなわけで、市場で馬車と馬車馬、食料なんかを買いこんで、いざ出発だ。

 これのせいで昨日の報酬のうち金貨二枚が消えてしまった。残り金貨一枚半でオランジュ滞在中の宿代とかまかなわなきゃ。生活について無能な兄を持つと、妹ってのは苦労するもんなんだな。


 そんなこんなで、森の小径を通って、コロコロコロとやってきました。オランジュ。森の賢者の街。


 マンエンディ側は背の低い落葉樹が多いんだけど、だんだん背の高い木が増え、樹木も密集してくる。


 そして、オランジュのまわりは、まるで巨人の森だ。マンエンディじゃ見られない、すっごく高い木が集まってる。神秘的。


 ここだけ、遥か遠くからでも見えるんだよな。神さまの世界まで届きそうな高い高い塔が、キノコみたいにニョキニョキ生えそろった。そんな街。それが、オランジュ。


「うわー。素敵。わたし、初めて来ました」

「私もです。オランジュ、こんなところだったんですね」


 素朴に感動してる二人にくらべて、兄貴はイヤな予感しかただよわせてない。


「ふふふ。賢者の街到着〜。さ、早く、本屋行こ? フクロウさんの魔法具屋がさきかなぁ?」

「行かねぇから。おまえ一人でも絶対ェ行くな?」

「アニス。冷たい〜」


 おまえが舞いあがってると怖ェんだよ。


 オランジュの街はほとんどがツリーハウスだ。塔みたいに背の高い木は中心のほうにある。森に住むビーストたちが住人なので、ツノのある鹿族や、巨体の熊族、狸や狐族、猿族などの姿がまじってる。


 あたしらはギルドのある広場へ直行した。広場っていっても石畳じゃない。自然に湧きだした泉をまんなかにして、野原が広がってるんだ。森に融合した感じが落ちつくよなぁ。


「さてと」


 幌馬車から『A級資格ガイドがダンジョン案内いたします』の看板をとりだそうとしてると、すっとよってきた人影がある。


「ガイドアニスではないか。その節は世話になったな」


 おや、どっかで見おぼえのあるこのお顔。デッカいテディベアだ。


「あっ、この前のクマのお父上ではありませんか」


 あの気弱に見えて、とんでもない暴れん坊熊の息子くんは、パパの背中に恥ずかしそうにひっついてる。


「テディエラ子爵である。そなたら、マンエンディ住まいではなかったか?」


 事情を説明すると、クマさんは大きくうなずいた。


「ならば、オランジュ滞在中は、わが家に来ぬか? そちらに恩返しがしたい」

「ほ、ほんとですか? ありがとうございます!」


 ラッキー。これで宿代が浮く。


 案内されたのは豪勢なツリーハウスだ。巨木の一本がまるまる子爵家のものらしい。パイプツリーって木で、もともと内部が空洞なのを居住に利用してるんだってさ。


「ところで、ガイドアニス。仕事なら、わが親戚のシープル男爵が頼みたいといっておったぞ」


 家と仕事がいっぺんに降ってきた!

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