32.薬草の調合
「さて、今日は昨日採ってきた薬草を使って、ポーションを作りますよ」
工房に入った私は、シオンさんが用意してくれた大きな作業台の上に、アイテムボックスから薬草をずらりと並べた。
「ふむ、どれも鮮度抜群ですね。さすがアイテムボックス。採った瞬間の状態を保ってくれるのは助かります」
「しかし、よくまぁこんなに……。まさか、二百本以上作るつもりじゃないだろうな?」
「いえ、そこまでは。でも、確認したところ、この世界のポーション、品質がかなりひどかったんです」
私は手に入れた市販品をシオンさんに見せた。
「見てください。色合いは濁ってますし、成分も偏ってます。回復成分が弱い上に、余計な成分まで混ざってる。魔力での抽出も全然できていませんでした」
「そ、そうか? 濁っているようには見えないし。鑑定したら、ちゃんとした初級ポーションだぞ」
「それは最低限としての初級ポーションということです。決して、最高の初級ポーションではありません」
私は改めてポーションの瓶を手に取り、鑑定のスキルを発動させる。すると、液体の内部構造が透き通るように見えてくる。
「まず、回復成分の粒子が大きく、均一に溶けていません。本来なら細かい粒子が溶け合い、身体に吸収されやすい状態になっているはずなのに、このポーションは粒が角張ったまま沈殿し、効果が十分に発揮されていないようになっています。さらに抽出時に使われた魔力の質が粗く、薬草の治癒成分が半分ほど壊れてしまっているのが分かります」
「ほ、ほう……」
「それだけではありません。薬草の微細な繊維や、加熱不安定によって苦味成分まで浮遊しています。だから味が悪く、効果も薄いわけです。工程ごとの魔力操作が雑で、混ぜ合わせも均一ではなく、素人仕事に近い調合です」
「そ、そこまで分かるのか……」
「この世界では、調合術そのものが正しく受け継がれていないのでしょうか? 知識も技術も断片的で、過去のどこかで失われてしまったような印象を受けます。錬金術は本来、繊細さと理論が必要な技術なのに、今は習った通りに混ぜるだけの形式だけが残っていて、大切な中身が抜け落ちているように感じます」
「女神が言っていた、この世界が発展途上なのが良く分かる、といったところか……」
何が言いたいかというと、この世界の錬金術の技術が甘い。
「そこまで分かっているのなら、改善は出来るのか?」
「もちろんです。実際、やって見せた方がいいでしょう」
そういって、私は工房の壁側に錬金窯をスキルで召喚して置いた。
「まずは水魔法で水を入れます。調合用に私が改良した水です」
「……水魔法の水を改良?」
「はい。水質を自分好みに変えることが出来るんですよ」
「水を消したり、水質を変えたり、ヒナの水魔法はどうなっているんだ!」
「魔法って便利ですよねー」
本当に魔法って便利だ。でも、私はシオンさんに比べて平凡な魔法しか使えない。やっぱり、魔法はシオンさんに限る。
それから、水魔法で水を錬金窯に入れた。
「これでよし」
「目分量で、いいのか?」
「えっ? ちゃんと一ミリリットルまでしっかり測ってますよ?」
「い、今ので?」
水は多くても少なくてもダメ。適正な量を入れないと、正しい初級ポーションは出来ない。
「じゃあ、次に水を煮出していきます。火魔法を使って、錬金窯を熱します」
「ここは普通だな。なんか、落ち着く」
「温度は鑑定スキルで確認して、適正な温度になったら薬草を入れます」
「適正の温度は分かるのか?」
「はい。鑑定スキルがありますから」
「ヒナの鑑定スキルはとんでもないな……」
細かく鑑定スキルで温度を確認していく。すると、適正温度になった。
「じゃあ、薬草を入れます」
念動力で大量の薬草を宙に浮かせて、一気に錬金窯に入れる。
「そ、そんなに大胆で大丈夫なのか? もっと、繊細にしないとダメじゃないのか?」
「大丈夫ですよ。全部、分量と抽出効率を計算してますから。むしろ、問題はここからなんです」
錬金棒を召喚すると、錬金窯に入った水と薬草をかき混ぜていく。
「一定の温度と魔力操作で薬草から成分を抽出していきます。もし、ここで乱れると、余計なものまで出てきてしまうので細心の注意が必要です。ここは大切な行程ですよ」
「なるほど……」
集中して薬草から成分を抽出していく。すると、じんわりとにじみ出てきた。
「回復成分の粒子を小さくするために、魔力操作でしっかりと小さくしていきます。この粒子の微細化がとても重要なんです。粗いままだと、飲んだ時に体がうまく吸収できなくて、回復効果が半分以下になっちゃうんですよ」
「魔力操作でそんなことが……」
私は少し肩に力を入れ、魔力をぎゅっと絞り込んだ。すると、少しずつお湯の色が濃くなってくる。
「うん、十分に成分が抽出されましたね。次に、成分そのものを強化します。これをすると、薬草本来の薬効以上の力を引き出せるんですよ」
「や、薬効以上……? ちょ、ちょっと待て。そんな芸当、普通は不可能だろう!?」
「えっ? 出来ますよ」
「できるって……いやいやいや! ありえん! 絶対にありえん! 王都の錬金術師でも、成分強化なんて誰も使えないぞ!? そもそもそんなスキルが存在するなんて聞いたこともない! 何だその反則みたいな技は!」
「便利ですよねー」
「便利っていう言葉で全てを片付けるなー!」
この力があれば、薬草が本来持つ薬効を底の底から引き出せる。通常の錬金では絶対に触れられない領域、そこへ魔力操作で踏み込むのだ。
私は錬金棒を握り直し、先端へそっと魔力を流し込む。途端に、抽出液の色が揺らぎ、次の瞬間、みるみるうちに濃さを増した。澱みのない、クリアな輝きを帯びながら。
成功してる。この世界で一般的に流通している初級ポーションとは、そもそも透明度が違う。強化がしっかり噛み合った証拠だ。
「これで、完成です!」
すると、シオンさんが思わず息を飲んだ。
「……いつも見ている初級ポーションと色が違うな。いや、こんな透き通った液体、王都のギルドでも見たことがないぞ?」
少し慌てたような声に、私はくすりと笑う。
「最高の初級ポーションを目指しましたからね。結果がついてきてくれて、嬉しいです」
鑑定ウィンドウを開くと表示された数値は、まさに最高の初級ポーションと言える。うん、間違いなく理想通り。
私はポーションを冷やし、準備しておいたガラス瓶へ慎重に注ぎ入れる。蓋を締めると、瓶の中で液体がきらりと光った。ガラス越しに宝石のような透明感を放っている。
「ふふっ……初級ポーション、完成です!」
「ほ、本当にすごいな……」
「さぁ、次は魔力回復ポーションを作りますよ!」
気合いを入れ直しながら、私は新しい素材に手を伸ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます