31.良い人たち

「わ、私っ、私なんかがぁ……! し、知った口をきくなんて……は、ははっ、はいっ! す、すみません、すみませんっ!あのっ、こ、こんな場違いな私がしゃ、喋るだけで迷惑ですよね! じ、自重しますぅっ!」


 あぁぁぁああ!? 私、今、知らない人に、偉そうに……話しかけた!? え、なにそれ! なんでそんな命知らずな真似したの私!?


 絶対いらんことした! 絶対嫌われた! 絶対「何こいつ」って思われた!!


 あーーーーー!! もう無理! 恥ずかしい! 世界リセットボタンどこ!? せめて記憶だけでも消してぇぇ!!


 あぁ、地面よ……私を抱いて……埋めて……。いっそ岩盤の下まで沈めて……!  地殻プレートの間に挟まって永眠したい……!!


「えっと、その、気にしてないぞ?」

「ヒナ、頭を上げろ。みんなが困っているぞ」

「ヒィィッ! ややややっぱり、わ、わた、私の存在が邪魔ですよねっ! 消えます、消えますから! 今すぐ、地面に埋まって!」

「……ヒナ」


 その時、黒ヒョウのシオンさんが頭を私の頭にこすりつけた。すると、めちゃくちゃだった感情がフッと軽くなった。


「……あっ」

「もう、仕方のないやつめ。ほら、これでまともに喋れるようになっただろう?」

「す、すいません……。また、ご迷惑を……」


 シオンさんの精神魔法のお陰で、私の精神が正常に保たれた。あれだけ辛かった感情がなくなって、本当に楽になった。


 私はようやく立ち上がり、その人たちを見た。大剣を背負った戦士の男性、背の低い僧侶の恰好をした女性、細身の魔導士の男性、長身のエルフの女性のメンバーだ。


 いかにも冒険者パーティーといった様子だ。


「す、すいません……ご迷惑を、おかけし、ました……」

「いや、いいんだ。それよりも、採取の方法を教えてくれてありがとな! これで、今度からはちゃんと採取が出来そうだ」

「お、お役に立てたなら……良かったです……」


 戦士が気さくに話しかけてきて、ちょっと怖い。だけど、なんとか返答することが出来た。


「あんたの話を聞いて、なんで素材の売値が低いのか分かったよ。きっと、扱いが雑だったんだろうな」

「そういえば、受付のお姉さんが素材を出すといつも顔を顰めていたわよね。雑に扱ったせいね」

「理由……分かった。……良かった」

「じゃあ、これからは素材採取もちゃんとしたお金になりますね」


 そのパーティーメンバーは嬉しそうに話し合った。わ、私の話しが……役に立った? ……それは、嬉しい。


「見たところ、あんたも冒険者? 一人で大丈夫か?」

「えっ、あっ、はい……大丈夫です。た、戦える力は、一応あります、し……シオンさん、が、その、いてくれます」

「私がシオンだ。ヒナが世話になったな。私が傍にいれば、ヒナは安全だから、安心してくれ」

「そうか! 頼もしい用心棒だな!」


 な、なんとか返答することが出来た。でも、やっぱり対面は怖い……。シオンさんが間に入ってくれたけれど、苦手だなぁ……。


「でも、一人と一頭じゃ危険じゃない? 良かったら、うちのパーティーと一緒に行動する?」

「おっ、それいいな! ついでにうちのパーティーに入って行けよ!」

「えっ」

「……突然の勧誘、強引すぎ」

「強引ですけれど、野放しには出来ません。だって、こんなに小さくて可愛い子なんですから」


 わ、わた、私が他人のパーティーに!? いやいやいや、そんなご迷惑をかけるわけにはいかない! 私なんか邪魔になるだけだよ!


「みんなも乗り気だね! ねぇ、私たちのパーティーに入らない? 君がいてくれると、きっと助かる場面があると思うの」

「素材の知識とか豊富そうでしたからね。そういう知識のある人がパーティにいてくれると助かります」

「だな! それに、一人と一頭じゃ寂しいだろう? うちに入ったらどうだ?」

「……確かに。知識がある人、入ってくれると……助かる」

「えっ、えぇっ!」


 ど、どうして見ず知らずの私をパーティーに誘ってくれるの!? 普通なら、ふーん、って通り過ぎるだけじゃないの!?


 それに私がパーティーに? いやいや、怖くて無理すぎる! ようやく、シオンさんに慣れてきたのに、いきなり人の傍にいるのはハードルが高すぎるよ!


 こ、断らなきゃ。でも、断って嫌な雰囲気になったら嫌だし……。うぅ、でもパーティーには入れないし。ど、どうすれば!?


「悪いが、その話しは断らせてもらうよ」


 その時、シオンさんが間に入ってきた。


「こう見えて、ヒナも私も強い。だから、一人と一頭で問題ない。それに、今日出会ったばかりのパーティーにヒナを託したくないのでな。だが、ヒナの能力をかってくれて嬉しかった、それは感謝しよう」

「そっか……。それは残念だわ。でも、これも何かの縁。今後、仲良くしてくれると嬉しいわ」

「ヒナは人と対するのが苦手でな。あまり慣れない人には近寄って欲しくないのだよ」

「まぁ、そうなのですか。それはご迷惑をおかけしましたわ」

「でも、嫌わないでもらえると嬉しい。いずれ、ちゃんと話せる時期が来ると思う」


 シオンさんが私のためを思って、そのパーティーに説明してくれた。そのパーティーも話を納得してくれて、断ったのに雰囲気が明るい。


 良かった……険悪なムードにならなくて。これも、シオンさんのお陰だ。


 ホッとしていると、ふと目に留まった。そのパーティーメンバーの首に私の作った牙飾りが、腰にはウサギの尻尾がつけられていた。


 こ、この人たち……私の作ったものを買ってくれた人!? うわー、嬉しい! 買った人がこんなに身近にいるなんて!


「じゃあ、俺たちは行くよ。また、どこかで会ったらよろしくな」

「……じゃあ、また」

「あぁ、その時はよろしくしてくれ」

「えっ、あっ……さ、さようなら。ま、また……」


 そういって、そのパーティーはその場を離れていった。よ、良かった……最後まで何もなかった。いや、あったけど、思った以上に穏やかに終わった。


「あのパーティー、ヒナが作ったものを装備していたな」

「あ、シオンさんも気づきました?」

「あぁ。良かったな、作ったものを使ってくれていて」

「はい。とても嬉しいです!」


 やっぱり、自分の作ったものを使ってくれるところを見ると嬉しくなる。それを知っただけでも、あの人たちに出会えて良かったと思った。


「よし。残りの素材採取、頑張りましょう」

「あぁ」


 お陰で元気が出てきた! 私はシオンさんに跨ると、森を疾走していった。

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