PART3 エトルタの絵葉書より その1
返答は笑い声を混じりながらの説教口調であった
「ライトくん言ったでしょうよ! 段取りがあるってこういうこと!君は命を狙われる立場なのに何を安心してるんだって教えただけじゃないか!怒らないでよね」
「実弾を撃つとは聞いてません!」
出流からイライジャという名前が飛び出て十秒もしないやり取りに、私の心臓は跳ね上がっていた 異常な世界 それが今まで母が旅してきた場所、天使と人間が共生する異常な世界に私は入り込んでしまった 私は心臓を抑えながらもイライジャと呼ばれた少女の声の主を探そうとするも見つからない、ただ少女の声のみが教会内で反響している
「ソーニャ!ねぇ、ソーニャ!マオは言ったはずよ、銃口から権力が生まれると」
揺れるブランコを押すような風に 軋むと重なる銃声 彼女はイライジャ、私を呼んだ第二十六番目の天使、その正体は声だけしか分からないが、そうなのだと思った。
「静かにしたらどうかしらイライジャさん」黒い霧が私の周りに漂っていた 私の声は今の銃声よりも不愉快な声で、如何にも怒ってることが分かりやすかった。
だから遠くで見ている私もこの小さい頃の不愉快な私を見たくないので相手を見つけようと必死ににらんでいた そんな私をノライアはちょっと心外そうに宥めるようにして言うが、私はその言葉をすっかり忘れている、こんなシーンはあったのだろうか?「ソーニャ、違うんだってば。忘れてないのか確認しようと来ただけなのに…こりゃすっかり忘れてるわね。詩人やエッセイストの確認は簡単ね。毎日彼らの作品を読めば忘れてないことがすぐわかるからさ、 ちょっと彼らが病めるそんな嵐の日にそっと直接会いにいけばいいものね それだけだったら奇跡もモナドもいらない、馬車に乗ってジャリミチのでこぼこにゆらゆらと でもあなたの母親も祖母もみんな忘れちゃったのね かなしいな」
忘れてる?見ている私は疑問に思う何を私は忘れてしまったんだろう「忘れた?そんなわけないわ、初めて私たちは出会ったのよ ここで!」当時の私も見えない動作をその調子を頼り、声を追って聞き出そうとする。
姿を追うのは諦め、現れるのを待つことにしたようだ。
「そうでしょう、」私が教会の中央に立っていて、先ほどまでその奥に声が響いてたのに突如後ろから聞こえた。
振り返ると出流が続けて言って、こちらへと入って来た。
「マオイストは言い忘れたがエンゲルスは言及した。歴史の二度目について、必然たる巡回。二度目の出会いなのですよ。」
「知らないってば」心臓を抱えてふらふらする、知らない話は怖い話 知らない話を埋めていけば怖いものはなくなると思っていた少女にとって致命的なまでの恐怖であった。
だけど、その時の二人は優しく、出流は手を差し伸べて、グランドピアノの前に立ち、けん盤を覆う青い絨毯に触れてこう言った。
「大丈夫、ソーニャ。未来の君が覚えていれば何も問題がない話だ。未来の君は神を疑った日のことを忘れることはない。」急に私に対して言及されたようでドキッとするが、子供の私が反論している 「皆未来の話なんかしないでよ、私は今の話が聞きたいの!カミサマなんてどうでも」いいのだが、その状況において何か言い終えることは出来やしない、その時青い絨毯は取り払らわれけん盤を押して、思想が現れたからである。
この音はやさしさであった。 何もなくたっていいじゃないかという、全部を放棄してそう言いのけるやさしさだった。天使の弾くピアノは価値が高くよく売れるらしい それは天使の言葉一つに銃弾よりも値段がついて、あらゆる権威も天使の価値には勝てないからだ。
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