PART1 その3
もともとそこで休憩し、足を伸ばす予定だったために、大きな窓と小さなドアを開けて 私は地図に指さした 「エトルタという小さな町がすぐ近くにあります。10分ほどあるけば、教会がございますし、30分歩けば街もございますが、どういたします?燃料も切れかけてますし、徒歩で教会まで行きましょう。」 男たちは顔を見合わせた後、ここで立ち往生するよりはましだと思い、持てるだけの荷物をもって走り出した。
異郷の普遍神が信仰されるその小さな教会にて私たちは優しく向かい入れてもらい、雨宿りと彼らのフランス紅茶と私たちが持ってきたバイエルンのお菓子と一緒に少しばかりの団欒を楽しんだ。
雨粒が涙を覆い隠し、紅茶が喉にひっつく意識を溶かして体中にいきわたる様になり、今が一番明瞭な意識になっていた私は 蝋燭と灯りの差さないステンドグラスの黒い輝きをもって 自分の座っている椅子などに目が色々とびうつる その時、薄暗い光の当たらない絵画と目が合う。
その絵画の正体はよくわからなかったのか、その時からすでに知っていたのかはどうでもよく、台風を抜けて太陽を見つけた航空士の気分で、一歩ずつ一歩ずつ近づいていく。
「ソーニャ女史、どういたしましたか?」
スイス人は私と視線を交わす絵画の存在に気づき、近づいて持ってきた懐中電灯で照射し、それははっきりと姿を現した。
3かけ10の巨大な抽象絵画、日本語で「第27番目の天使」と題されていて、それだけでこの絵に何も思い当たるものはないが、商人であった父が投機として利用したのち、批評家たちが有名人に仕立て上げ そんな有名人が描いた作品として歴史に回収されるような戦争絵画、世界大戦以後のネヴィンソンのような色彩の淡い、この世界に対してあまり期待するものがない人の描いた絵といえばそれらしいか、しかし本来そんな退廃芸術は教会に似つかわしくないはずだ、いくつもの炎は人の顔をして、木は蝋のように枝垂れている、時計の丸の枠と三角形は今にも外れだし、調子のズレてそうなのにこの暗いドイツは確かに現実の方に属してるのだと感じさせる
そして現実的なのが 顔のない。巨大な甲冑のように覆われた、この絵に描かれてる建物や車と比較であれば15M以上あるスプリング式のウィッカーマンのような兵器、私たちの世界ではドール:ルヴェリアと呼ばれるものが炎の揺らぎと共に正体怪しく前方の警備用ドールを一撃で撃破せしめ、その破片がレンガの家屋や木々をなぎ倒すその瞬間を切りとったかのような、そんな絵画が、私たちの目の前で厳存している。
吹き飛ばれた木の枝や雨音がステンドグラスを叩く反対方向、入り口から入って右側の身廊の側面にその絵画は異様にもある。
私たち三人は神父とシスターを置いて、魅入っていた。
ニヤニヤと視点を動かさぬままに考え事をしているスイス人は黙ったままだったが、運転手は「これはなんなんです?」と純粋な疑問を口にした。
私はその声にこたえたものがいないかどうか、後ろを見ると、純金の燭台に油を注ぐシスターの満ち足りた顔は私たちのような珍しい来客者にむけて凝視しているが、答えてくれそうにはない。目のぼんやりとした暗やみへの慎重が、シスターの小指が垂直に硬直させていた。
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