第22話 いつもの騒ぎ
部屋の扉を開けると、アイリスはソファの上で丸くなりながら本を読んでいた。
むくっと顔を上げると、ぱぁっと花が咲いたような笑顔になる。
「おかえりなさい!」
レンは微笑みつつ、隣に座る。
「ただいま。アイリス、ちょっと話があって」
「王様との話のことですか?」
首を傾げながら、本をぱたんと閉じる。
大きな瞳が、興味と不安で揺れていた。
レンはゆっくり切り出す。
「来月、『四大国会談』っていう大きな会議が開かれるんだ。王様から相談を受けて……俺も流れで同行することになった」
アイリスは最初きょとんとしていたが、すぐに「四大国?」と小さく呟く。
無理もない。
彼女は長い間、育ての村の外にほとんど出ず、世界の情勢も国の存在も曖昧にしか知らない。
「アイリス、今俺たちがいる大陸は四つの大国で成り立っている。ひとつは、俺たちが今いるアルスター王国。それから森に囲まれているエルフたちの国“フィリア”。大きな川の向こう側にある、水の都“ルディア”。そして……南の砂漠にある、サルバン帝国」
アイリスは目をぱちぱちさせながら一生懸命聞いている。
「私、この国のことでさえ全然知らなくて……」
「うん。ずっと村で暮らしてたからしょうがないさ。でも、世界は広いんだ。文化も、人も、生き方も全然違う」
アイリスは自分の膝の上で手をぎゅっと握りしめた。
「……レンさんは、全部見てきたんですか?」
「全部じゃないけど、旅の中でいろいろ触れた。森の中では価値観が変わるし、山ひとつ向こうでは、断えず争っているところもある。それぞれに文化があって、歴史がある」
「……すごい……」
「そうだ!ほら、一緒に行った聖なる泉、実はエルフの領土だったんだよ」
「そうだったんですね!あの泉がエルフの国……」
「今回の会談には、その四つの国が全部集まる。普段だったら考えられないことなんだ。エルフなんて、滅多に外に出てこないし、サルバンなんて……」
アイリスは静かに息を呑み、そして不意にレンの袖を掴んだ。
「レンさん。その会談に行ったら、また……危険な目に合うんじゃないんですか?」
どきりと胸に刺さる問い。
レンは一瞬迷ったが、嘘だけはつけなかった。
「危険がまったくないとは言えない。だけど、戦いに行くわけじゃない。ただの会談だ。大丈夫だ。帰ってくる」
そっと頭に手を置き、目を合わせる。
「心配させてごめんな」
「……私、世界のこと、もっと知りたい。レンさんと一緒に色んなものを見たい、私も知りたい……その会談、私も付いて行きます!!!」
「……へ?」
そのとき──
ドンッ!と、廊下の方から盛大な音が響いた。
「……なんだ?」
レンが眉を寄せて立ち上がるより先に、
バァンッ!!
扉が跳ね飛ぶ勢いで開いた。
「れんっ!!」
「レン様!!」
「レンっ!!」
セリア、リィナ、ノエルの三人が、ほぼ同時に雪崩れ込んでくる。
その剣幕に、アイリスが「ひゃっ」と肩を跳ねさせて再びソファにへたり込む。
レンは思わず目を瞬く。
「お、お前ら……どうした?」
三人とも息を切らせ、頬を赤くし、しかし目は妙にギラついている。
リィナは勢いのままレンににじり寄った。
「レン!! 聞いたわよ! 今度の会談にあなた、同行するって言ったんでしょっ!!」
「まあ……そうだけど」
「そうだけどじゃないっ!!」
ずい、と胸ぐらを掴まれそうな勢いで前に出る。
「危険よ!? 絶対なにか起こるに決まってるじゃない!!」
「いや、会談だぞ?」
「サルバンが参加するなんて平和に終わるわけがないじゃない!!」
レンは宥めようとするものの、反論の隙がない。
続いてセリアが進み出る。
彼女の顔には、怒りなのか、不安なのか、曖昧な揺れがあった。
「……レン様。もちろん私も連れて行ってくれますよね?」
静かな声が逆に怖い。
「いや、さっき決めたばかりだし、セリアには聖女としての仕事が──」
「聖女なんて関係ありません!貴方は、また一人で行こうとして……」
セリアは唇をきゅっと噛みしめ、俯き、
「二度と、あなたを失うようなことがあったら……」
ぽろりと涙がこぼれかける。
レンは慌てて手を伸ばすが、セリアは涙を拭って無理やり笑顔を作った。
「ごめんなさい、取り乱しました……でも、本当に心配なんです」
ノエルが腕を組んでずいっと近寄る。
「レン。どこへ行くにしても、わたし達の許可が必要」
ノエルはぐいっとレンの袖を掴んで揺さぶる。
「レンが行くなら当然、同行するに決まってる。出発はいつ?」
そんな三人の迫力に、アイリスはソファアから動けなかった。
「三人とも、すごい迫力。 ちょっと落ち着いてください」
リィナが慌てて両手を上げる。
「あっ……違うのアイリス! 怒ってるんじゃなくて!ちょっと、その、あの、こう!」
セリアも急いで笑顔を作る。
「そうよアイリスちゃん、気にしないで。怒ってるわけじゃないですからね?」
ノエルもうんうんと頷く。
「怒ってないのは分かりますよ。 ちょうど今、私も連れて行って欲しいってお願いしてたとこなんです!」
レンは頭を抱えた。
(騎士団として護衛の任があるリィナはまだしも、他のみんなも付いてくる気、満々だなぁ。この速さで俺が参加する事を知ったのは王様が付いてくる事を見越して、三人に伝えたからだろうしなぁ)
リィナが胸を張る。
「というわけで、レン。会談には私たち四人も同行します。異論は認めません!」
ノエルも手を挙げる。
「また、他の国にも行きたいと思ってた」
アイリスはレンの袖を引っ張り、
「レンさん……わたしも、行っていい?」
レンは四人に囲まれ、逃げ場もなく。
(……結局こうなるのか)
小さくため息をつきつつ、苦笑した。
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