第23話 不穏な空気
俺たち五人を乗せた馬車は不規則なリズムで揺れていた。
車輪が簡易的に舗装された道のふくらみを越えるたび、かたん、ことん、と穏やかな音が響く。
向かう先は、巨大な川の向こう――水の都ルディア。
王様達と乗る船とそれまでの道の安全を確かめる先遣隊の様なものとして俺たちは王都を旅立っていた。
レンは向かいの座席に腰掛けながら、改めて馬車の中を見回した。
(……五人乗りは、さすがに狭いな)
アイリスはレンの隣にちょこんと座り、膝の上に手を揃えている。
その向かいに、セリアとノエル。
そして馬車の後ろの席に、背筋を伸ばして座るリィナ。
沈黙が続いたあと、リィナが咳払いをした。
「……じゃあ、一応整理しておくわよ」
全員の視線がリィナに向く。
「今回の会談に、わたしたちが同行する“理由”。要職である私たちが、国を出るには建前が必要でしょう?」
レンは苦笑した。
「いわゆる大義名分、ってやつだな」
「そうよ」
リィナは胸に手を当て、堂々と言い切る。
「私は国王陛下が参加するなら、王国騎士団の人間として護衛に就くのは当然よね!」
ノエルが即座に口を挟む。
「ふん……なら、わたしは宮廷魔術師としての研究の為。ルディアは魔導技術も進んだ国。学術交流の名目での参加、極めて妥当」
「ふむ……筋は通ってるわね」
リィナが頷く。
セリアは少し遅れて、控えめに手を上げた。
「私は、聖女として参加する必要があると判断しました」
「それ、理由になってる?」
ノエルが意味深に微笑む。
「もちろんです。今回の会談には要人が多く参加します。回復魔法に習熟した私が必要となる場面があるはずです」
セリアは視線を逸らさず、きっぱりと言った。
レンは内心で「万が一が起きる前提なんだな」と思いつつも、口には出さなかった。
すると、アイリスがおずおずと口を開いた。
「え、えっと……じゃあ、わたしは」
四人の視線が一斉に集まり、アイリスは肩をすくめる。
「皆さんの……その……お世話係……?」
「それは大義名分というより私情では?」
ノエルが即座に指摘する。
リィナが一瞬考え込み、
「まあ、職権乱用ではあるけど、この四人からのお願いを断れる人なんていないし、私たちと一緒に居るのが一番安全だしね」
五人は顔を見合わせて笑った。
馬車は街道を順調に進んでいた。
日差しは穏やかで、車内は穏やかな雰囲気でゆっくりとした時間が流れて行った。
「ルディアって、水路が多いんですよね?」
アイリスが楽しそうに身を乗り出す。
「ええ。街の中を船で移動する区域もあるそうよ」
「湿気が多いなら、魔導具の保管に注意が必要ね」
ノエルは腕を組み、やや不満げだ。
「全く、観光じゃないんだからね」
リィナが苦笑する。
「それにしても、皆でゆったりとした気持ちで馬車に乗るなんて久しぶりね」
「確かに」
レンは背もたれに身体を預けた。
「前は、移動中も魔王軍の話ばっかりだった」
「今思うと、あの頃は余裕がありませんでしたね」
セリアがしみじみと言う。
ノエルはくすっと笑った。
「でも今は、旅行って感じで楽しいわね」
その言葉に、車内の空気がほんのり和らぐ。
――次の瞬間だった。
「止まれええっ!!」
外から怒鳴り声が響き、馬車が急停止する。
「ひいっ!!!」
御者の悲鳴と共に、複数の足音が地面を踏み鳴らした。
リィナが即座に立ち上がる。
「盗賊ね。数は……十以上!」
「多いですね」
ノエルが魔力を励起させ、セリアはアイリスを庇うように引き寄せた。
レンは無言で立ち上がり、扉を開ける。
外には、粗雑な布鎧を身に着けた男たちが陣を組んでいた。
剣、斧、弓――装備はまちまちだが、動きに無駄がない。
「ここを通りたけりゃ通行料を――」
言葉が終わる前に、レンが踏み込んだ。
リィナが先頭の男を叩き伏せる。
ノエルの魔術が地面を縛り、逃げ道を塞ぐ。
セリアは馬車の中でアイリスを守りながら、三人にバフをかける。
数分もかからなかった。
盗賊団は次々と地面に転がり、呻き声だけが残る。
「終わりね」
リィナが剣を納める。
「拍子抜けですね」
ノエルも肩をすくめた。
アイリスは少し遅れて馬車から顔を出し、
「す、すごい……あっという間……」
「もう大丈夫だ」
レンが優しく声をかける。
――だが、レンは周囲を見回し、眉をひそめた。
「……おかしいな」
「どうかしましたか?」
セリアが尋ねる。
レンは倒れた盗賊の一人の鎧を見た。
「ただの盗賊団崩れにしては動きが揃いすぎてる。あとこの革鎧、ボロボロに見せかけてるけど、ちゃんとしたいいものだ」
「確かに……」
リィナもしゃがみ込み、別の男の装備を確認する。
「剣の握り方も、素人じゃない」
ノエルが低く呟いた。
「服装は盗賊、でも練度はしっかりと訓練されたそれ。ただの金目当てと考えるには違和感がある」
一瞬、沈黙が落ちる。
レンは静かに立ち上がり、馬車の進行方向を見る。
「これは、ただの杞憂ってわけじゃないだろうしな……」
何か不穏な予感だけを残して、馬車は再び、ルディアへと走り出した。
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