第19話 決着
「生きていたのか……ダグラ」
「貴様に復讐するために、地獄から這い上がってきたぜぇ」
ダグラの眼光が、銀色の獣のようにぎらりと光る。
セリアは後ろで浅く息を飲み込んだ。
リィナは剣を強く握り、ノエルは青白い顔で魔力を練り上げる。
三人とも、レンが片腕を失った状態でここまでの相手との闘いに胸が張り裂けそうな思いを抱く。
「レン……無理はしないで。お願いだから……」
「こいつらは私たちが……」
三人から焦りの色が見える。
だがその瞬間。
「……ふん、貴様ら三人は邪魔だ」
低く、地の奥から響くような声とともに、ダグラが足を踏み鳴らした。
「レン!!危ない──」
ノエルが言い終える前に、地面が突然、鋭い光を放った。
――バチィッ!
魔法陣。 踏み込んだ場所一帯に、グラハムが先に仕込んでいた魔法罠が起動する。
――ドッ……グオォォン!!!
大地が爆ぜるような爆音とともに勢いよく隆起した。
まるで森そのものが二つの領域に引き裂かれたかのように、レンと三人を分断するような巨大な土壁が築きあがる。
「レン!!」「だめーー!!」
三人が必死に駆け出すが、すでに高くそびえる壁に足が止まる。
その隙を待ち構えていたように、
グラハムが三人の前へ歩み出る。
「お前ら“勇者の足手まとい”はこの俺が相手だ」
口の端だけで笑いながら、剣を肩に載せる。
リィナは刃を抜きざまに叫んだ。
「アンタ……初めから、レンを狙って仕組んでたのね……!!」
「まぁな。あの勇者とダグラ様がやり合うのに、余計なのが横槍を入れさせるわけにはいかねえからなぁ」
ノエルとセリアの眉が吊り上がり、怒りで声が震える。
「あんたを速攻、ぶち殺す!」
グラハムは鼻で笑う。
「心配か? 片腕の勇者が、ダグラ様に勝てると思うか?」
その一言に、三人は同時に怒りで表情を歪めた。
「言わせておけば……!」
リィナが踏み出す。
「レン様、今すぐ駆け付けます……!」
セリアは神杖を振るいリィナとノエルに強化の加護を授ける。
「へぇ……いい顔するじゃねぇか。なら、まずはその覚悟……試してやるよ」
グラハムが剣を構え、三人に向かって駆ける。
壁を隔てて、レンのほうでは、すでにダグラが動き出している。
互いが剣を抜き放つ音と同時に、二人の距離がゼロになる。
最初の一撃は、互いの剣が中央で火花を散らし弾かれた。
「片腕でまともに剣なんざ振れると思ってんのか?」
ダグラの剣が真横から薙ぐ。
レンは刃を滑らせて角度をずらし、最短距離で首筋を狙う。
ダグラはそれを片手で受け止める。
「てめえなんぞ片腕で十分だっ!」
「生意気なぁ!」
ダグラが踏み込み、剣が暴風のように襲いかかる。
重く、速く、荒々しい軌道だが、無駄がない。
レンは刃を合わせるたび腕が軋み、膝の力が削れる。
「ほらどうした! 一撃でも受け損ねたら終わりだぞ!」
「そんな事、分かっている!!」
レンが前へ出た。
剣を弾かれながらも刃を滑らせ、ダグラの肩を狙う。
ダグラは剣を逆手に返し、レンの刃を空へと逸らした。
「片腕でよくやるじゃねぇか……だが、俺は最強だ。最強は負けねぇ。どんな理合も、力の前じゃ無意味だ!」
吼えるような声と同時に、ダグラの膝がレンの腹を抉る。
息が漏れるが、レンはめり込んだ状態から頭突きを返した。
「最強なら、負けても言い訳なんかするなよ?」
「言い訳なんざ必要ねぇ! 俺は負けねぇんだからなッ!」
ダグラの腕が旋風のように振るわれる。
レンは身体を沈め、足払いを狙うが、それより早くダグラの足が持ち上がり、蹴りが側頭部を強かに打つ。視界が揺れても、レンは構えを崩さず踏みとどまる。
「いいのが入ったと思ったんだが、倒れねえのかよ」
「俺が倒れると、泣いちゃう奴らがいるんでな」
その瞬間、レンの踏み込みが爆発した。
反撃の一閃がダグラの頬に薄く線を描く。
血が流れても、ダグラの目はむしろ楽しげに光った。
「そうだ……その顔だ。強ぇ奴はそうでなきゃなァ!」
ダグラの剣が真上から振り下ろされる。
大地を割らんばかりの重さだが、レンは土煙も気にせず懐へ潜り込む。
刃と刃が重なる。
火花が連続で弾ける。
呼吸が荒れ、足が止まれば即死という距離。
「ちょこまかとうぜえなぁ!」
「うるせぇ!さっきから唾が飛んでんだよ!」
レンの剣が、ダグラの胸元をかすめた瞬間。
ダグラの動きがわずかに乱れ、その隙をレンが追う。
だが――。
「人間風情がッ!!」
ダグラの剣が地を滑り、レンの足元を刈り取ろうと走る。
「死ねええええ!」
しかし、辛うじて跳ね上がるレン。
直後にダグラの剣が床を削り取った。
空中で体勢が崩れたレンへダグラが飛び込む。
巨大な影が覆い、剣先が喉元へ走る。
「終わりだァ!」
レンは空中で剣を逆手に返し、斬撃を斜めに弾く。
着地と同時に、呼吸を一つ。
「最強にこだわるなら、なんで魔王を倒そうとしなかったんだ?片腕の無い今の俺を倒して最強だと?」
「あぁ?何がいいてぇ」
「ふん……てめえは自分が勝てそうな相手にだけケンカを売って、最強だとイキってる雑魚なんだよ!」
「ブチ殺す」
血管がはちきれそうな怒りの形相をしたダグラが真っ向から突っ込んで来る。
レンもここが勝負所とみて足に力を込め、渾身の一撃を放つ。
二人が交差し、鋭い音が空気を裂く。
二人の間にわずか一瞬、静寂が生まれる。
ドサッ
倒れたのはダグラであった。
レンの剣は正確に、自身が付けたダグラの腹部の古傷をとらえていた。
「ごっふ……はぁ、はぁ……ここまでか……」
ドガアアァン
けたたましい轟音と共に、レンと三人を隔てていた壁に穴が開いた。
「「「レン!!!!」
「レン様、大丈夫ですか!? 今、治癒魔法をかけますから!!」
「レン、大丈夫!? けがはない? 私も加勢するから!!」
「レン! 下がっていて。 私がこの森ごと消し飛ばすから!!」
「大丈夫、今終わったとこさ。 そっちも終わったのか?」
「あのクソ野郎はぶちのめして、地獄に叩き落してやったわ」
「くくっ……グラハムもやられたか……どうやら……ここまでの様だな」
「終わりだ、ダグラ。 今までの過ちを地獄で反省するんだな」
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