可哀想なアトラス君 

Kay.Valentine

第1話 

アトラスの属するタイタン族が、

戦争でオリンポス軍に敗れた。


アトラスは、

敵の総大将ゼウスから刑罰を命じられた。


「世界の西の果てで天空を背負いなさい」


「えーっ、冗談じゃないですよ。

あんな重いものをずっと持つなんて、

辛いですよ。それだけは勘弁してください」


「ばかもの! お前の一族は、

戦争でわしたちに負けたんだから、

当たり前だ」

 

こうして、アトラスは渋々、

天空を背負うことになった。


一方、ヘラクレスである。彼は王様に

「『女神たちの庭園』から

『黄金の林檎』を取ってミケナイへ届けろ」

 と命じられた。


ところが、彼は庭園の場所知らない。

彼は途方に暮れた。


「そういえば、

あいつなら何か知っているかも……」


彼はかつて、プロメテウスを

助けてやったことを思い出し、

さっそく彼にこのことを相談した。


「困っちゃったんだよね。

これこれ、こういう事情でね…」


「アトラスは、

庭園の女神たちの父親なんだからさ、

アトラスに訊いてみたらどうなの……?」


「おっ、いいことを聞いた。

じゃあ、さっそくアトラスのところに

行ってみる」


で、ヘラクレスは、

さっそくアトラスを頼って訪れて来た。


ところが、来てみてびっくり。

アトラスは天空を背負っていて、

動けぬではないか。


でもこの際、

頼んでみれば何とかなるかもしれない、

場所だけでも聞き出そう。

そう思い、

ヘラクレスは無理を承知で頼んでみた。


「きみの娘たちの庭園から

『黄金の林檎』を取ってこないと

まずいんだよね。

何とかならない? 

場所を教えてくれるだけでもいいからさぁ…」


「じゃあさ、

ぼくが庭園に行って林檎を持ってくるからね、

それまで、

ぼくの代わりに天空を支えていてくれる?」


アトラスはほくそ笑んだ。

シメシメ、やったね。

このままあいつに

天空を背負わせてしまおう。


アトラスは庭園に行き、

約束通り林檎を持って帰ってきた。


しかし、

このままあいつに仕事を押し付けて

しまおうと企んでいたので、

笑顔をとりつくろって

ヘラクレスに提案した。


「このまま林檎をミケナイまで

届けてやるから、もうしばらく天空を

背負っていてくれない?」


ヘラクレスも馬鹿ではない。

そんなことを言われるのではないかと、

うすうす感じていた。


「うん、いいよ。でもね、

このままの背負い方を続けるのは

辛いんだよ。

どうすればもう少し楽に背負えるか

教えて欲しいんだけどなぁ…」


「そうだね。じゃあ、

ぼくが背負いかけ方の見本を

見せてあげるから、

ちょっと、その天空をぼくに渡してみて」

アトラスは天空をヘラクレスから

渡されると、

得意になってヘラクレスに言った。


「ほらね、肩の力をぬいてぇ…、

背筋を伸ばすんだよ。

そうすれば、天空が真上に来るでしょ。

これなら、体の筋肉に余分な負担が

かからないんだよ」


「おお、素晴らしい。

さすがは天空支えの名人だ!」


「そういわれると、てれるなぁ」

アトラスは照れ笑いを浮かべた。


「じゃ、ぼくは林檎をミケナイに

届けてくるね」


ヘラクレスはアトラスを置いて

さっさと行ってしまった。

(あいつも単純なヤツ)


こうしてアトラスは

再び天を背負う事になった。


「なんだ、結局、あいつのが

いちまいウワテだったわけか…。

つくづくぼくって

騙されやすいタイプなんだなぁ」


アトラスが絶望の底にいて

みずからの運命を嘆いている時、

ペルセウスが通りかかった。


「あれ…、アトラスじゃないか。

何やってんの?」


「見ればわかるだろ、

天空を背負っているんだよ」


「なんで、そんな大変なことしてるの」


「好きでやってるわけないだろうが、

ムカツク! 戦争に負けたんだよ」


「なんとまあ、可哀想な…」


「そういえばさ、噂できいたんだけどね。

ペルセウスはメドゥーサの首を

持っているよね」


「うん、これだけど。」


ペルセウスはメドゥーサの首の入った袋を

見せると、アトラスにたずねた。


「これがどうかしたの?」


「メドゥーサの首を見たら、

石になるっていうじゃないか。

お願いだから、

ぼくを石にしてくれないか。

この重い天空を持っているのに、

もう耐えられないんだよ」


「まあ、体は石になっても、

体の中は変わらないから、

アトラスがどうしてもと

言うんならいいよ。

それに、もとの体に戻りたければ、

解毒剤もあるしね」


ペルセウスは、袋を開けて

メドゥーサの首を右手で高く掲げた。


「はい、見て」


すると、

アトラスは一瞬で石になってしまった。


何千年もの月日が経ち、

彼はアトラス山脈になった。


……ということです。 

          オシマイ     

      

        ギリシャ神話より

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