第7章 王の前でくしゃみをしてはならない

王城の大扉が、ゆっくりと開いた。

金と白で彩られた大理石の回廊。

壁には風を象徴する羽の紋章が刻まれており、

天井では魔法の光がゆらゆらと浮かんでいる。


「うわ……すげぇ……」

「口開けて見とれるな。王の前で鼻が鳴ったら終わりだぞ。」

リックが小声で釘を刺す。


「口じゃなくて鼻注意なのかよ……」


そんな軽口を叩いている間に、

俺たちは王の謁見の間へと通された。



◆ 王との謁見


玉座の上に座るのは、白髪に金の冠を戴いた威厳ある男――

アルメリア国王、レオニクス三世。

その隣には銀髪の少女、王女と思しき人物が控えていた。


「顔を上げよ、異界の来訪者よ。」


その声は低く、しかし柔らかい。

俺は姿勢を正し、静かに名乗った。


「リュウと申します。村を救った件で、お呼びいただいたとか。」


王はうなずき、近衛の一人が巻物を開いた。


「そなたの力――“くしゃみ”とやらで、魔獣の群れを退けたという報告、確かに届いておる。」


「はい。ただ……まだ完全に制御できるわけじゃありません。」


「ふむ。風を操る者としては、我が国にとっても貴重な戦力だ。

 だが――」


王の視線が鋭くなった。


「同時に、最も危険な存在でもある。」


その瞬間、空気が重くなる。

後方の兵士たちが、わずかに剣の柄に手をかけた。


リックが一歩前に出る。

「陛下! リュウはそんな奴じゃありません! 彼は村人を――」


「静まれ。」

王の言葉一つで、空間が凍りつく。


「我は彼を疑ってはおらぬ。ただ……確かめねばならぬのだ。」


「……確かめる?」

「その力が、“人のため”に使えるものかどうかを。」



◆ 試練の庭


案内されたのは、王城の裏庭――

広大な石畳の広場、周囲には魔法防御の結界が張られている。


「ここで、我が魔法騎士団の副団長・カイルと手合わせしてもらう。」

ライザーク団長の声が響いた。


「ま、まさか本気で戦うのか?」

「もちろん、鼻でだ。」


「……鼻限定!?」


リックが頭を抱える。

リリア(いつの間にか王城入りしていた)が手を振る。

「がんばってくださいリュウさん! くしゃみ、暴発だけはしないように!」

「一番難しいこと言うなよ!!」



カイルと名乗る男は銀の鎧に黒髪の青年だった。

手には杖を持ち、目はまるで風の流れを読むように鋭い。


「噂の“風の災厄”か。

 ……見た目は普通の鼻タレ坊主じゃないか。」


「うるせぇな。俺の鼻は歴戦なんだよ。」


「なら見せてみろ。“鼻の力”とやらをな。」


杖が地を打つ。

瞬間、暴風が走った。

魔法陣が展開し、無数の風刃が空を舞う。


「《ウィンド・スラッシュ》!!」


風の刃が迫る。

俺は反射的に息を吸い込んだ。


「ハッ……ハァァァァ……ハックショォォォン!!!」


ドォォォォォンッ!!!


轟風が逆巻き、風刃をすべて飲み込む。

結界がきしみ、観戦していた兵士たちがよろめいた。


「うおおおおっ!? 庭が消えたぁぁ!!」

「バ、バカな……王城の結界がひび割れてる……!」


煙の中から、カイルがよろけて立ち上がった。

鎧の一部が削れ、地面には巨大なクレーター。


「っ……くっ……本気で、風を……押し返しただと……?」


俺は鼻を押さえながら立ち上がる。

「だから言ったろ……俺の鼻、戦闘用なんだよ。」



◆ 王の決断


沈黙が続いたのち、王の口元がわずかに緩んだ。


「……よい。認めよう。

 その“風”は確かに破壊ではなく、守るための力だ。」


玉座の上から王女が立ち上がる。

「お父様、彼を――“風の勇者”として任命しては?」


「ふむ……名は、リュウであったな。」

「は、はい。」


王は静かに頷く。


「今日より汝を、“風の勇者”として王国に仕える者と認める。

 ただし、王の前では――絶対にくしゃみをするな。」


「……それ、超重要ですね。」


王城に笑いが広がった。

リックが小声で「これ絶対やらかすパターンだな」と言う。

俺はため息をつきながらも、胸の奥に確かな誇りを感じていた。



だがそのとき。

王女の背後、ステンドグラスの外側に――

黒い影が、また“羽ばたいた”。


その風は冷たく、鼻の奥がムズムズするほど嫌な気配を残していった。


「……魔王軍、か。」

ライザークがつぶやいた。


俺は無意識に鼻を押さえた。

世界の風が、動き始めている。

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間違えてくしゃみ威力に全ブッパ!? ~ステ振りで決まる異世界にてくしゃみ男が世界最強に~ @hre

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