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「ほら、今お風呂をたいたから、さっさと入ってまずは体をあっためな。あがったらパンとスープと、それからお手製のおいしいココアがあるからね」
魔女は家につくと、ひょいひょいと軽く指を振って明かりをつけ、暖炉に火を燃し、それからあっという間にバスタブをお湯で満たしてしまった。
あたたかい湯気がほわほわとあふれだしてきて、吸血鬼はこくんと唾を呑む。
「ああ、それにハロウィンのお菓子の残りもだ。まったく最近の人間の子供ときたら、こんな町はずれの魔女にまでお菓子をねだってきたりして、生意気ったらありゃしない。いくつ作っても終わりがないなんて!」
大袈裟に肩をすくめて首を振りながら、魔女は「ああ、シャワーの使い方はわかるかい?」と立ち尽くす吸血鬼の顔をひょいっと覗き込み、頷いたのを確認すると、バスルームから出て行った。
ばたんと扉が閉まって、向こうの部屋からシューッと湯気のあがる音と、かたかたと軽快な足音、じゅわっと何かが焼ける音や香ばしい匂いが届いてくる。
吸血鬼はバスタブいっぱいのお湯を見下ろし、それからそうっと指の先をひたした。
かじかんで肌が切れそうだった指も、長いこと手入れできていないぼろぼろの爪も、熱いお湯に包まれる。
そのままてのひらまで、それから手首まで中に入れると、また涙があふれてきて、ぽたりと湯舟に波紋が弾け、ぽっと消えた。
服を脱ぎ捨て、ざばっと全身湯舟につかる。
あたたかい。
幸せすぎるくらいに、あたたかい。
何度も、何度でも泣きたくなってしまう。
黒い翼を降りたたんで、紅い曲がりくねった角の生えた額を膝に押し付けて、吸血鬼はずっと、久しぶりの熱いお湯にあたたまっていた。
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