おかしなワンアワーホーム

音夢音夢

1

 おなかが、すいた。

 なにか、あたたかいものがほしい。

 あたたかい家と、パンと、スープ。


 だれか。だれでもいい、だれかにたすけをもとめて。

「たす、けて」

 少女は石塀にもたれかかって、うすい唇を開いて小さな声を出すけれど。

 誰も手を差し伸べたりはしない。


 たすけて。

 誰かにいたわってほしい、優しくしてほしい、動かない体をあたためて、動かないこころをだきしめて。

 この見た目のせいなのか。

 素直に助けを求めても、厄介ごとと思われるのか。

 だましてでもtrick、人間のふりをすれば。

 そうすればand、誰かがわたしを。

 いやしてtreat――


「なんだいあんた、吸血鬼かい?」


 ほろほろと眼差しを動かして、しわがれた声のするほうへ向けた。

 つばの広い、大きな、黒いとんがり帽子。

 黒いレースのついたドレスを着て、透けるほど白い髪をふんわりとまとめた、ひとりの年老いた魔女。

 鷹のように鋭い目が、まじまじと少女を見下ろした。

「めずらしいねえ、こんな人間の町で。私のいる町でよかったと思いな。他の町なら袋叩きにされてるよ」

「……たべ……たべ、もの……」

 魔女だ。人間じゃない。

 なら、きっと、おそったってかまわない。

「たべもの……、くれなきゃ、ひどいめに……あわせてっ」

「無理するんじゃないよ、ふらふらじゃないか」

 なんとか立ち上がろうとする少女の足が体重を支えられずに大きくぐらつくのを、魔女はふわりと抱き留めて支えた。

 ひびわれた唇から、はあっと大きなため息が漏れる。

「そんなおどし、誰が信じるもんか。あんた、そんな優しいをしてるくせに、私を襲えるわけないだろう」

 抱き留められたままの吸血鬼の少女の、くるりと丸い大きな瞳が見開かれた。

 抵抗しようとしていた力が抜けて、小さく、けれどしっかりした魔女の肩にかくんともたれかかる。

 唇が震えて、じわりと瞳に涙が滲んだ。

「……っ、う……」

「ああほら、もう限界じゃないか。他人をひどいめにあわせる前に、まず自分の心配しな。ここは寒いから、私の家に行くよ」

 しわの滲んだ小柄な身体のどこにそんな力があるのか、魔女は軽々と吸血鬼を抱えると、かじかむような寒さの切り詰める町中をさっさと歩きだした。

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