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 結果発表:他の英霊が攻撃を開始するまでに撃墜したデペスの数――たったの38体。


 しかも撃ち落しはしたものの、それが撃破扱いされているかは不明なので、これがキルスコアとなっているかも不明ときた。

 ワンショットワンキルならまだ恰好は付いたのだが、この結果には思わず顔を顰めてしまう。

 サイドカーのエリッサが「僕が挽回してあげるから」と背中をバンバン叩いてくる。

 ちなみに俺の次に攻撃を始めたのが銀髪細身の弓使い。

 高身長で髪が長い中性的な容姿なので男なのか女なのかわからない。

 というか弓がスナイパーライフル並みの射程距離とかどういうことなのか?

 弾丸で一撃で倒せない敵を一本の矢で複数まとめて仕留めるとかどうなっているのか?

 こちらも負けじと射撃を再開するが片や爆散、片や撃墜である。

「もうこれ俺いらないんじゃないかな?」と自虐したくもなる。

 ともあれ、何万といる中の数十の敵を倒したところで誤差の範囲であることに変わりない。

 それでも本格的な攻撃が始まる前に少しでも削っておいて損はないので、こうしてチマチマと撃ち続けている。

 デペスとの距離も確実に縮まっており、少しずつではあるが攻撃に参加する英霊が増え始める。

 その中にはあのエルメシアの姿もあったが、距離がありすぎるのか思った通りの結果にならないらしく、肩をすくめて待機状態に戻っている。


「そろそろ射程内だ。準備をしておけ」


 俺がエリッサに言うと「まっかせて」と元気な返事をして立ち上がるとサイドカーの縁に足をかける。

 遠距離攻撃が撃ち込まれる頻度が増えており、このペースなら接近戦となる前に二割くらいは削れるのではないか?


(雑な目算だが、ここからさらにペースが上がるとして、三割以上は持っていける可能性もあるか?)


 事前情報通りに楽な相手だな、と回避行動すら取らない無抵抗な飛行型がドンドン地上に落下していく様を見ながら、俺はスナイパーライフルからライフルへと武器を変更する。

 DPSなら初期武器の方が高いが、射程距離ならこちらが上。

 この距離ならばライフルが正解だ。


「俺が撃ち始めたら射程内だ。リロードの仕方は大丈夫だな?」


「大丈夫だよ。スコール1に合わせて攻撃開始だね」


 俺は頷くと照準をデペスに合わせる……が、こちらは誰かの攻撃で倒されたので他を狙う。

 ライフルの射程距離だと遠距離攻撃を使う英霊たちは大体戦闘を開始している。

 近距離主体の英霊たちは前には出ているが、突出する者は誰もいない。

 敵の数だけは多いので、きちんと火力が出せる布陣で戦うつもりのようだ。

 静かに佇むリオレスと欠伸をしているデイデアラが見えたが、こいつらがいたらデペスは前衛陣を抜けてこちらに攻撃することができるのだろうか?

 魔法と思しき攻撃がデペスの群れに撃ち込まれ始め、目に見えて進行速度が落ちるのがわかった。

「大した弾幕量だ」と感心しつつ、俺はようやく射程内に入った個体に向けて銃撃を開始。

 それに合わせるようにサイドカーから放たれるロケット弾。

 魔法の一撃に引けを取らない大きな爆発が複数のデペスを巻き込む。

 俺は銃撃を続けながらもバイクの弾薬パックからロケットランチャーの弾を取り出し、エリッサに手渡すとこちらもリロードを行う。

 爆発と爆風で羽を損傷をした個体が次々と落下していき、待ってましたといわんばかりに地上の英霊が止めを刺す。

 既に一部のデペスは急降下からの攻撃を開始しているが、その全てはいとも容易く迎撃されており、単純な攻撃しかしてこない飛行型はどんどん数を減らしていく。

 さらに前に出る英霊たちが乱戦を形成しており、ここまで近づかれてはアサルトライフルの方が良いので武器を交換。


「爆発に味方を巻き込まないように注意しろ!」


 俺の注意に「わかってるよ!」と返すエリッサだが、敵の数が多いうちはどれかに当たるから大丈夫だが、少なくなった時が少し心配だ。

 二人のリロードのタイミングが合い出すと効率良く火力を出せるようになってきていることを感じるが、周りに比べるとやはり攻撃力不足を実感する。

 敵も近づいてきたのでバイクを走らせ、ゆっくりとだが引き撃ちを開始。

 飛行型の羽を潰してどんどん撃ち落していく。

 今更だが、あのサイズが羽でどうやって飛んでいるのだろうか?

 まあ、考えてもわかることではないので運転と射撃に集中しているとジョニーとレダの戦う姿が見える。

 ジョニーは「何でも屋」と名乗るだけあって攻撃手段が豊富なようで、レーザー銃や雷が連鎖する長めの警棒をメインに、爆発物や粘着弾のような多彩な手札を状況に応じて切り替えている。

 正反対にレダはリボルバーの二丁拳銃ただそれだけ。

 但し射撃速度とリロードの早さが尋常ではなく、その精度もまた百発百中というレベル。

 おまけに弾が特殊なのか着弾と同時に小さな爆発を起こしており、次々と飛行型を落としている。

 彼らの弾薬等補充がどうなっているのかが気になるが、デペスとの距離が縮まってきているので今は引き撃ちに集中。

 火力があれば全て解決するのだが、と何度出したかわからない結論にDPS至上主義への道が開かれている幻覚を見てしまう。

 既に近接型の英霊たちはデペスの群れに飲み込まれており、近づく飛行型を片っ端から迎撃している。

 中には空中戦を始める者までおり、ほとんど一方的な戦いになっていることが遠目からでもわかった。


「向こうの邪魔にならないように戦うぞ!」


 言ってて情けないセリフではあるが、エリッサも「わかった!」と身の程を弁えて自分にできることをする。

 飛行型を仕留めるよりも羽を潰して地上に落とすことに集中していると、意図に気づいた英霊たちが「楽な相手だ」とばかりに止めを刺してくれている。

 戦功がどうなるかは不安だが、迎撃がメインの近接主体の英霊からすればよい標的となっている。


「はっはっは! いいぞ、もっと落とせ!」


 それに真っ先に気づいたのがあの蛮族のおっさん。

 連携が上手いと褒めるべきなのだろうか?

 それとも嗅覚が鋭いと言うべきなのか?

 俺たちが撃ち落した飛行型もしっかりとキルスコアに変え、笑いながら嵐のようにデペスを粉砕していく。

 囲まれても平気な前衛はデイデアラだけではない。

 剣を振るう度に周囲のデペスが切り刻まれ、無人の野を駆けるが如くこの戦場を疾走するリオレス。

 踊るように槍を振り回し、近づくデペスを完璧に迎撃している英霊もいる。

 ふと「後衛組は大丈夫なのか?」と思ったが、シールドのようなもので近づけさせない者や、周囲に弾幕を張ってむしろ前進している英霊までいる。


(あれは確か……ジャミトス、だったか?)


 チラリとライフルのスコープで覗き見たが、余裕綽々で笑みを浮かべながら周囲の飛行型を爆散させている。

 他の後衛メンバーも協力するなりしてこの乱戦をどうにかしており、その中にレイメルの姿を確認して少し安堵する。

 俺はというとバイクの速度がそろそろ限界に達するくらいには移動に全力である。

 すごい勢いで減っているとは言え、まだまだ敵の数は多い。

 引き撃ちをする余裕が徐々になくなり、搭乗者のエリッサが振り落とされないように安全運転を意識して移動ルートを選定している。


「弾ちょーだい、弾!」


 なのでロケランの弾を取り出すのも一苦労だ。

 前を見ながら座席の後ろにある弾薬パックに手を突っ込み、掴んだロケランの弾をエリッサに放り投げる。

 爆発音に合わせていたルーティンも崩れ、余裕のある時以外ではリロードもできない。

 サイドカーがついていては散々やり込んだバイクテクの披露も難しい。


(というかこのバイクでは無理だな。速度もそうだが、何もかもが足りてない)


 中々に厳しい状況だが、敵の数はドンドン削れている。

 時間さえ稼げばどうとでもなるので、最悪大量のタゲだけ引き付けて逃げ回ってもよい。

 そう思っていたのだが、エリッサから弾の催促。

 バイクの操縦を疎かにできないタイミングなので無視したら背中をドコドコ叩いてくる。

 攻撃しなければ不安な状況なのはわかるが、ここまで近づかれている状況で撃ったら自爆する。

 なので無視を継続。

 状況が悪くなってきたので、手遅れになる前に一度群れの中からの突破を試みる。


「速度を上げる! しっかり捕まってろ!」


 返事を待たずに正面から迫る飛行型に対し、加速しながらギリギリ横をすり抜けるような回避。

 視界が開けたことで判断が少し遅かったことを俺は悟った。

 ならばやるしかないか、と覚悟を決める。

 後ろで「うひゃー」という悲鳴が聞こえたが、気にすることなく続く上空からの攻撃を車体を傾けることで回避することを選択。


「サイドカーを捨てるぞ!」


 そう叫ぶとエリッサは俺に飛びつき思いっきりしがみつく。

 車体を傾け、地面スレスレを走りながら旋回して空中からの噛みつき攻撃を躱すも、接触したサイドカーが吹っ飛んでいき、衝撃で車体の制御が不能となり、ここまでは体勢を立て直すことができず体が地面と接触することになる。

 ならば、とばかりにロケットランチャーを具現化。

 バイクではない武器スロットから出しているので弾は装填済み。

 爆風がギリギリこちらに届く距離でロケットランチャーの弾頭を飛行型に直撃させる。

 爆風は想定通りにバイクを押し出し、速度を落とすことなく横滑りをしながら立ち上がった。

 直後に俺は武器をライフルとアサルトライフルへと変更。

 変則的な両手ライフルで正面の爆風に巻き込まれたデペスを排除し、銃を投げ捨てると速度を上げてその横を通り過ぎる。

 数が大分減っていたこともあって、どうにか突破することに成功した俺は大きく息を吐く。

 だが、一息ついたのも束の間。

 乱戦から距離を取ったことで俺の視界に映るものがあった。


(おいおいおい、冗談だろ!)


 上空を覆うような広範囲の警告エリア。

 この飛行型のデペスにそんな能力はないはずである。

 だとすれば、こんなことをするような奴は一人しか知らない。

 よく見れば警告エリアは絡まり合った無数の触手のような歪な形をしており、それは地上付近にまで手を伸ばしている。


「全員地上に降りろ!」


 猶予はないと判断した俺は大声で警告発する。

 空中でデペスを足場に空中戦をしていたリオレスが真っ先に地上へと戻る。

 英霊たちから一目置かれるリオレスが迷いなく従った、このことが空中で戦っている者たちを急がせた。

 直後、ビシリという大きな音とともに空間が裂けた。

 その攻撃に見覚えのある俺はある人物を探し出す。

 特徴的な格好をしているので俺はすぐに目的の人物を発見する。

 見つけたのは空へと伸ばした手を握るエルメシア。


(味方の巻き込みを考慮せずにまとめてやりやがった!)


 先ほどの一撃で残ったデペスは文字通り全滅した。

 まだ数千という数が残っていたにもかかわらず、それを綺麗に一撃で殺し尽くしたのだ。

 つまり戦闘はこれで終了した。

 問題は、これで終わりではないことだ。

 先ほどまで空にいた英霊たちが殺気立つ。

 第二ラウンドか、それとも……不安になるこの光景に俺は銃を握る手が無意識に力んだ。

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