第6話
オーク・リベンジャーは吠え猛り、地面を震わせた。
その攻撃は重く、速く、もはやオークとは別の存在だった。
俺は最小限の動きで身をそらし、かすめるように避ける。
地面を裂く棍棒の衝撃が頬をかすめた。
ほんの一歩でも踏み遅れれば即死だ。
「晃さん!まずいですよ!ここは引きましょう!」
「大丈夫だと思う。ステータス強化しといた」
「ほッ!なんだー防御あげてたんですねー」
「……」
「晃さん⁉ なんで無言なんですか⁉」
背後で柚月が叫ぶ。
「今あるポイントを使いきって守りにふっても雀の涙だ。だったら操作性を上げたほうがいいと思って」
「だからって防御に振らなかったの⁉ やっぱり引きましょう!」
「まあ、見ててって」
俺は拾った昨夜に石を削って作っておいた即席の短剣を構え、間合いを詰める。
空気が裂ける。オークの棍棒をかいくぐり、喉元を狙って振り抜いた。
かすかな手ごたえ。血が滲む。
ほんのわずかだが、有効打だ。
うん。これならいける気がする。
念のために使っておくか――スキル発動。
その瞬間、頭の奥で何かが弾けた。
視界が歪み、背後から温かな気配が広がる。
艶めかしい半透明の女性が、俺の背中に腕をまわして抱きしめるように現れた。
天使のような神秘的な姿に邪悪な笑みを浮かべる。
『じゃじゃーん! 邪神バージョンのオラクルちゃんでーす!』
『ぷぷっ! それにしても晃くんったら、オラクルちゃん大好きじゃーん! こんなに早く出番がくるなんて思わなかったよ!』
「黙ってろ! 最初から使える能力にしやがれ!」
『しょーがないでしょ! 最初からぶっ壊れだと視聴者からクレームがくるの! ……それに成長って楽しいでしょ?』
「……違いない。俺は今、とても興奮している」
俺は深く息を吸い込んだ。
「時間がない。――10分でやるぞ」
≪神託≫は進化し、≪降臨≫へと変わった。
1日10分だけ、オラクルをこの世界に呼び出せる。
敵の攻撃パターンの予測、HPバーの可視化、攻撃有効率の分析。
俺の頭の中で、戦場がデータ化されていく。
『次! ≪威圧≫がくる! 咆哮を近くでくらうとスタン状態になるから気を付けて!』
「了解!」
俺は距離をとり、咆哮の隙を突いて喉を切り裂く。
2ダメージ。
回避ざまにもう2ダメージ。
対する俺は、一撃でゲームオーバー。
だが――それでいい。
極限のスリルの中、俺は確かに生を感じていた。
オーク・リベンジャーのHPは1000。
500回の攻撃で勝てる。
勝ててしまう。
一撃ごとに、心臓が跳ねる。
汗が滲み、視界が冴える。
ああ。すげぇ楽しい。
「す、すごい! 完璧だ! 本当に勝てちゃうかも!」
柚月の声が震えていた。
そして、10分が経過するころ。
オーク・リベンジャーは、地に伏した。
『時間になっちゃったねー。また、呼んでよ!』
「ああ。また頼むよ」
神秘的な光に包まれて消えていくオラクル。
しかし、その消え際に軽く手を振りながら言った。
『ばいばーい!』
戦場に静寂が戻る。
そして次の瞬間、画面に通知が連なる。
『メインシナリオをクリアしました。』
『緊急シナリオ報酬:経験値+2000%』
『終末の司祭者 Lv.5 → Lv.16 に上がりました』
「やっほー! すっごい経験値です! これでシナリオクリアですね!」
柚月が笑顔で駆け寄ってくる。
だが、俺はウィンドウを閉じ、静かに呟いた。
「……まだ終わりじゃない」
ポイント配分画面を開く。
俺は迷わず、すべての成長ポイントをMPに振った。
「え、えぇ⁉ なんでMPに全部⁉ せっかく攻撃力上がってるのに!」
「試したいことがあるんだ」
俺は両手を組み、祈るように呟く。
「≪死霊術≫――発動」
黒い霧が地面から立ちのぼり、倒れたオーク・リベンジャーの体を包み込む。
やがてその瞳に、紫の光が宿った。
やがてオークリベンジャーの肉はそがれていき、骨がむきだしになった。
『オーク・リベンジャーのアンデッド化に成功しました』
通知を見てほっと胸を撫でおろす。
MPがたりたみたいでよかった。
「おおー!すごい! 強そう!こんなに強そうなモンスターが仲間に……」
「柚月!危ない!」
復活したオーク・リベンジャーは近づいた柚月へ棍棒を振り下ろした。
俺は咄嗟に柚月を突き飛ばす。
「何してんだ⁉ 危ないだろ?」
「あ、あわわ!どうして⁉ 成功したんじゃないんですか?」
「ん?……成功したじゃないか。復活してるぞ?」
「え! だってこっち襲い掛かってきましたよ!いう事とか聞いてくれるんじゃないんですか⁉」
「あはは! 何言ってんだよ。死霊術だぞ? 生き返らせるだけだ」
「えーーー! じゃあ、なんでこんなこと?」
「試したいことがあってさ」
オーク・リベンジャーとの再戦が始まる。
アンデッド化したオークリベンジャーの動きは衰えることはなかった。
しかし、先の戦闘ですべて動きは見切った。
オラクルの補助なしでも戦える。
それに大分体が軽い。
レベルアップの恩恵みたいだな。
俺は7分程度に時間を縮めて討伐に成功した。
『オーク・リベンジャー(アンデット)を討伐しました。1000EXPを取得します』
「お!経験値まで入るのか!儲けものだな」
「ちょっと!」
涙目でぷるぷると震える柚月がいた。
「説明してください! なんでこんなこと⁉ 死ぬかと思いました!」
「え!……ああ、すまない。楽しかったから、つい」
「もうー! 次からちゃんと相談してからやってください!」
「悪い、悪い。次から気をつけるよ。お詫びと言っちゃなんだが……柚月も経験値ほしくない?
どうやらレベルアップするとMPが全回復するらしい」
「……ご、ゴクリ」
それから俺たちは夢中でゾンビ狩りを始めた。
倒しては復活を繰り返す。
レベルアップもあり、俺たちはどんどんタイムを縮める。
10回は倒しただろうか?
そのころ異変を感じる。
『オーク・デスジェネラルに進化しました』
俺たちは通知を無視し狩りを続行する。
進化?関係ないね。
動きも早いし力も強くなったけど、
もはや行動パターンは完全に熟知した。
経験値が増えてうれしいだけだった。
オーク・デスジェネラルの討伐も繰り返し、レベルアップが打ち止めになった。
「どうする?MPが尽きそうだけど、MPにポイント降ればもう一回くらいできそう」
「ひひひ。豚ちゃんおいしいですー」
「了解」
柚月は完全にレベルアップ中毒になっていた。
楽しいよな。俺も。
最後の≪死霊術≫を発動するとまた異変が起きた。
『オーク・デスロードに進化しました』
……風が止まった。
さっきまで暴れていた空気が、まるで世界そのものが息を潜めたように静まり返る。
さっきまでとは違う。
空気が変わった。
大柄な骨格は人のサイズに縮小した。
ただ、威圧的な雰囲気は今までと比べ物にならない。
目の前の“それ”がこちらを見上げた瞬間、鳥肌が立った。
ただの進化じゃない。何かを――考えている。
背中を冷たい汗が伝う。
それでも、心はどこか高鳴っていた。
もしかして調子にのりすぎた⁉
次の更新予定
LIMINAL WORLD――邪神教徒式・無理ゲー攻略記 いそじま @ISOZIMA
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