第3話

「ちょ、ちょっと……タンマ! もう……息ができない!」

「あ、失礼しました! ……うーん、もうスキルが反応してないし安全みたいですね。一度休憩しましょう」


息があがり呼吸が難しい。

こんなに一生懸命に走ったのは人生で初かもしれない。


「じゃあ、自己紹介の続きを……」

「……はぁ……はぁ……っ! おぇ!」

「ぎゃあぁああ! ちょっと吐かないでくださいよ!」

「だ、大丈夫……飲み込んだ」

「そういう問題じゃ……」


俺は体力の限界で倒れこみ、息が整うのを待ってもらった。


「ふぅ……すまない。やっと落ち着いてきた」

「もうー。しっかりしてくださいね、私より運動が苦手な人みたことないんですから」


女性は膝を抱え込んだ姿勢から立ち上がり、砂埃を払った。


「改めまして、私の名前は城崎柚月です! ロール名は……ぽん太っていいます……」

「ん? ポンタ? 小さくてよく聞こえなかった。聞き間違えか?」

「あ、いえ、ロール名なんてなんでもいいじゃないですか! 城崎でも柚月でも好きに呼んでください!」

「わかった。じゃあ城崎さんって呼ばせてもらうよ。俺は七篠晃です」

「ええーなんか寂しいですよー。柚月で呼んでください!」

「君が何でもいいって言ったんじゃないか……」


短く紹介をすませた。

彼女は終始にこやかで気が和らぐ。


「そういや柚月さんって、あの子犬と同じプレイヤーであってる?」

「そうです! 私です。ちょっと……事情がありまして。ステータス見てもらったほうが早いかも」


柚月は俺に画面を見せた。


≪NAME≫

プレイヤー名:城崎 柚月

ロール名  :ぽん太


≪ROLE≫

呪われた獣姫 Lv.1


≪SKILLS≫

ロールスキル :「危機察知」「嗅覚」「爪撃」「回避」

オラクルスキル:「協調」


≪STATUS≫

HP:108 MP:0

攻撃:24 防御:12

素早さ:36 賢さ:19


≪ROLE EXPLAIN≫

あなたは獣人族の姫です。

とある王国の陰謀により、祖国を滅ぼされ、呪いで犬の姿にされてしまいました。

あなたは復讐を誓いながら、ともに戦う同胞を募ります。

犬化時、素早さは倍になりますが、それ以外のステータスが半減されます。


柚月はウィンドウを閉じると、しおらしく言った。


「はー。こんなわけで最初っから呪われてしまってしまったって訳です……晃さんのスキルで呪いが解けなかったら、ずっとわんちゃんのままでした」

「そうか……それでなんで俺についてきたんだ?」


一瞬驚いたかのような顔をしたかと思えば、難しい顔で考え込む。

表情の移り変わりが激しく、見ていて飽きない。


人型でも犬みたいな子だな。


「んー、ここは率直にお願いしましょう。実は私、ゲームが苦手なんです! 協力してください!」

「協力? 上位4名までしか本戦にいけないのにか?」

「ええ。だからです。このゲームには万能なロールが存在しないんです。きっと他のプレイヤーも徒党を組みます。チームを組むことが戦うことの前提になるはずです」


顎に腕を指を添えて考え込む。

その様子を柚月は唾を飲み込みながらじっと見る。


「ありがたい話だが……力になれそうにない」

「な、なんでですか⁉」

「言葉通り、力になれないかもしれないんだ。俺のステータスをみてくれ」


俺は自分のステータスを見せつける。


「な⁉ ステータス低すぎっ! 呪いで弱体化した状態の私より弱いかも……」

「だろ? たぶん、力になれないから他をあたったほうがいいと思う」

「そんなー! あなたしか頼れないんですよ! きっと何かすごい隠しスキルとかあるんでしょ⁉」

「そんなこと言われたって……何で俺だけなんだ?」


柚月はひどく落ち込んだ様子で体をそっぽに向け、地面に「の」の字を書き続ける。


「えー? そんなの私が一般人だからに決まってるじゃないですかぁー。ここに飛ばされる前の態度みたでしょー。あんな人たち相手してくれませんよー」

「一般人? 俺が知らないだけでアイドルか何かかと思ってたよ。かわいらしい顔をしてるから」


俺の言葉に犬耳がピクリと反応する。

ふてくされた表情はみるみるとろけだした。


「ええー。そんなアイドルにみえちゃいましたか? 晃さんっ、お口がお上手なんですね」

「機嫌がよくなったみたいだな。別に協力したくないわけじゃない。君にメリットがないから断ったんだ。俺にできることがあったらいってくれていい」

「なんだー。ただのツンデレでしたか! 晃さんもかわいいですよ」

「……ありがとう」

「そういや、晃さんには回復スキルがあるじゃないですか。全然役に立たないことはありません。つまり……私たちはここにチーム『邪神わんこ教団』を結成します! おー!!」


ネーミングセンスの欠片もないチーム名に思わず後ずさりしてしまった。

なんだろう。面倒くさいかも。


「でも本当にいいのか? 俺弱いしNPCに嫌われるし」

「大丈夫ですよ! たぶん、大器晩成型のロールなんですよ。前例がないほどのステータスの低さですけど……」

「そうだといいけど……このままも悪くないかもなぁ」

「え⁉ 何でですか⁉」


強くなった自分を想像する。

無双ゲームはあまり好きじゃない。

このくらい弱い方が楽しいのか?


「ちょっと! このゲームの配信みてこなかったんですか⁉ 上位プレイヤーなんて神様みたいなチート能力なんだから、そのままでいていいなんて思わないでくださいよ!」

「……別に思ってないよ」


もうソロプレイじゃない。

好き勝手出来ないのは残念だが、協力して強敵と戦うのも面白そうだ。


「晃さんには早く強くなってもらった方がよさそうですね。――オラクルスキル≪協調≫を発動」


柚月がスキルを発動すると、俺に通知がきた。


「プレイヤー名 城崎 柚月のメインシナリオ『3匹の大豚』が共有されました」

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