5日目:檸檬

 姉の生首はいつもにこにこしている。そう言えばこいつ、何か食べたり飲んだりしないのかな。


「腹とか減らないのか?」

「わかんない。食べていいの?」


 生首が飯を食えるかなんて、俺もわからない。口に入れるのはいいとして、その後どうなるんだろう。首のところから食ったモンが落ちてくるんじゃないのか?


「ねえ、試してみようよ」


 馬鹿、簡単に言うなよ。本当に首のところから漏れてきたらどうすんだよ。


「大丈夫だって、きっと食べられるから」

「そうかなあ……」


 俺はタオルを厚めに敷いて、まず水から飲ませてみることにいた。姉の口に水を含ませると、喉だけがごくごくと動いて水をどこかへ送り込んでいく。タオルは濡れていない。


「やった! 大丈夫だよ!」


 水を飲み干した姉の顔は、ぱあっと明るくなった。


「そうだけどさ、その水はどこに消えたんだ?」

「どうでもいいじゃない。それより私、アレ飲みたい! C.C.Lemon! ねえ買ってきて!」

「嫌だよ、何で俺が」

「私、動けないもん!」


 やれやれ、まったく俺がまた姉の足代わりになるなんて……十年ぶりだなあ。自販機まで行って、俺は何だか泣けて仕方なくなった。そして「帰るのが遅い!」と姉に怒られた。


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