2日目:温度

「おはよう、エージくん」


 朝っぱらから生首になった姉が話しかけてくる。あの後、姉は何を聞いても「よくわからないけど、気がついたらエージ君がいたの」しか言わないので俺はそのままベッドに入った。そして目が覚めたら姉がいなくなっていることを望んだが、姉はまだ机の上にいる。


「おはよう、じゃねーよ。どうしたんだよ、身体は?」

「知らない」


 ああ、やっぱりそれだ。昨日と何も変わらない。


「あのさ、触っていい?」

「いいよ。今更姉弟なんだから、私たち」

「まあそうだけどさ。一応俺、男だから」


 そう言って俺は横倒しになっている姉の生首を拾って、縦にして置き直した。首の断面を覗いてみる勇気は無かった。


「ひゃ、冷たい!」

「温度はわかるのか?」

「わかんないけど、多分すっごく冷たいよ!」


 とても嫌そうな顔をしているので、俺はタオルを何枚も重ねて机に敷いて、その上に姉を鎮座させた。


「ふふ、いいじゃない。これなら冷たくないよ」


 やれやれ、手間のかかる姉だ。俺はそれから仕事へ向かい、家に帰ってきたのは深夜だった。姉の生首は暗い部屋で目を閉じていた。俺は姉を起こさないようにそっとベッドに入った。

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