ソレッラ・テスタと夕暮れを

秋犬

1日目:身の上

 家に帰ると、俺の部屋に姉がいた。しかし、姉は十年前に行方不明になったはずだった。


「まあエージ、大きくなったわね」


 そう話す姉の首から下は存在せず、生首となった姉が机の上にころりと横になって置いてあるのだ。当時と変わらないロングヘアが俺の机にばさりと広がっている。


「大きくなったよ、アンタがいなくなってからもう十年も経つんだから」


 俺の姉、みやびはもうじき高校二年生になるという春先に行方を眩ませた。両親は捜索願を出したが結局家出ということで片付けられ、それ以降俺の家は完全に崩壊してしまった。当時中学生だった俺も、姉の失踪というショッキングな出来事で随分と人生を遠回りしてしまった。


「今どこで何してるんだ?」

「え、エージと喋ってるよ」


 馬鹿かこの姉は。そんなのは見れば誰だってわかる。俺はこの異常事態をどう受け入れるか考えた。


「誰かと一緒にいるとか、どこに住んでいるとか」

「わかんない!」


 俺はため息をついた。そしてこのお気楽生首の姉からたくさんのことを聞き出さなければならないことに心底うんざりした。

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